第一章 覚えていない初体験
私が愛した人、それは新木総合病院の外科医、新木(あらき)護(まもる)、次期医院長である。私が怪我をして、担当医師になったのが護だった。
護は事あるごとに私に近づき、口説いてきた。看護師さん達からは「新木先生は口説き魔だから、気をつけて」と言われていた。だから、護の言葉は信用していなかった。でも、護に日に日に惹かれていった。
そしてファーストキスを奪われた。二十九歳でファーストキスなんて、私は凄く奥手でこの年齢まで経験がなかったのである。最初で最後の恋だと信じて疑わなかった。
でも、護はいつもあやふやな態度で、はっきり愛しているとは言ってくれない。やっぱり看護師さん達が言っている通り、遊びなの?
「護、私のこと、好き?」
「好きに決まってるだろ」
「護は結婚しないの?」
「しない。俺は外科医だから、家庭は持たない。いつ呼び出されるか分からないし、家族は邪魔なだけだからな」
そうなんだ、いつでも患者さんが最優先なんだね。私も、いつでも二の次なのかな。
そんな矢先、護に婚約者がいると言う情報が私の耳に入ってきた。そして、私は婚約者のいる護を誘惑しているなどと、噂が広まった。無論、護の奧さんになろうなんて、これっぽっちも思わなかったが、やはりショックは大きい。私は護の前から姿を消した。
あれから十年、恋愛に臆病になり、もうすぐ四十歳を迎えようとしていた。私、どうすればいいのかな、このまま潤うことも知らず、枯れ果てていくの?
私の中の経験、護とのファーストキス。でも、彼にとっては単なる遊びだったに違いない。彼のために大事に取っておいても仕方ない初体験。叶わぬ夢、それなら誰でもいいから捧げちゃう?
これから益々枯れていく女の魅力。待てよ、私には初めから女の魅力はなかったのか。お金を出しても私の初体験は叶わないのかな?
そんなことはないない、でももしかして、自分で気づいていないだけかも。私には女としての魅力は全くないの?
今となっては、女としての魅力もなければ、若くもない。何にもないってことかな、私はあまりの衝撃にガックリ肩を落とした。恋愛をして初体験と言う道は、私には残されていないと悟った。


via LOVE KISS MY
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