image

第三章 狙われためぐ

 

食事もせず、私と鷹見さんは朝まで身体を重ねた。

 

「めぐ、もっとお前の喘ぐ声を聞きたい」

 

「もう、鷹見さんったら」

 

そんな鷹見さんの気持ちが嬉しくて、いつまでもこの幸せが続くと疑わなかった。

 

「めぐ、戸部建設会社の副社長の動向が気になる、十分に気をつけるんだ、わかったな」

 

「はい」

 

私は自分に危険が迫っているなど予想も出来なかった。

 

そんなある日、冬木さんがマンションにやってきた。

 

「買い物などめぐみさんに付き合うように、社長に頼まれましたので、一緒に出かけましょう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

私は冬木さんと駐車場に向かった。

 

「あのう、この間、久しぶりに鷹見さんに抱いて貰いました」

 

「そうですか、それはよかったですね」

 

「冬木さんが言ってくれたんですか」

 

「自分はなにも言いませんよ」

 

「そうなんですか」

 

その時、油断していた冬木さんは、後ろから羽交い締めにされて、脇腹をナイフで刺された。

 

「冬木さん」

 

私は人相の悪い連中に腕を掴まれ、車に押し込まれた。

 

「助けて」

 

冬木さんは脇腹を刺されたのに、助けようと私を車から引きずり出した。

 

そこに騒ぎを聞きつけたコンシェルジュ河本さんが警察を呼んでくれて、奴らはその場から逃げ去った。

 

「めぐみさん、怪我はないですか」

 

「私は大丈夫です、冬木さんが怪我を、どうしよう」

 

コンシェルジュ河本さんが救急車も呼んでくれて、冬木さんは病院へ運ばれた。

 

私は冬木さんの手を握って、ずっと側を離れなかった。

 

鷹見さんはすぐに病院に来てくれた。

 

「めぐ、冬木、大丈夫か」

 

「鷹見さん、冬木さんが、私の責任です、どうしよう」

 

私は鷹見さんに抱きついて、鷹見さんの胸に顔を埋めて声を殺して泣いた。

 

俺はめぐを抱きしめたまま、冬木の顔を覗き込んだ。

 

「社長、すみません、めぐみさんは怪我はないと思いますが、怖い思いをさせてしまいました、自分の責任です」

 

「いや、俺の考えが甘かった、すまん、戸部建設副社長が雇った奴らだろう、めぐを守ってくれて感謝する」

 

「めぐみさんを連れ去ろうとしたので、阻止出来てよかったです」

 

俺は深々と頭を下げた。

 

「社長、やめてください、この先めぐみさんを守れず申し訳ありません」

 

俺はこの先、めぐを守る方法に困惑していた。

 

これ以上、手下に危害を与えるわけにはいかない。

 

めぐをマンションに閉じ込めておくことも出来ない。

 

そんな俺の気持ちをわかってくれたかのように、めぐはマンションから出たくないと言い出した。

 

「鷹見さん、私ずっとここにいてもいいですか、外には出たくありません」

 

「ああ、めぐが大丈夫ならその方が危険がない」

 

俺は安堵したが、めぐにしてみたら相当のショックのようだった。

 

めぐから笑みが消えた。

冬木を刺したのは戸部建設副社長が雇った森山組のチンピラだった。

 

俺は森山組の組長に会いに行った。

 

「組長、高沢組の若頭、鷹見さんが組長にお目通り願いたいとのことですがどう致しましょうか」

 

「入ってもらえ」

 

俺は座敷に通された。

 

「高沢組の若頭さんが何の御用かな」

 

「そちらのチンピラにうちの組員が刺されて、重症をおったんだが、どう落とし前つけてくれるのかと思いまして」

 

「それは確かな情報かね」

「はい、戸部建設副社長に頼まれて、俺の女を狙ったようなんだが、助けに入ったうちの冬木が入院するほどの怪我を負わされたんです」

 

森山組組長はしばらく考えていたが、すぐにめぼしい組員を呼び付け、ことの事情を把握した。

 

「すまんな、うちの若いもんは血のけが多くていかん、そちらさんの様にエリートじゃないからな」

 

「戸部建設副社長の差し金なんだが、今後手出しは無用で願いたいのですが」

 

「分かった、そちらの組長さんは元気かね」

 

「はい、おかげさまで元気にしております」

 

「そうか、今度さしで一杯いかがかなと伝えてくれ」

 

「承りました」

 

「鷹見、うちにきてひと暴れする気はないか」

 

「ありがたいお話ですが、マジな女がいるんで、世のため、人のためと言う高沢組組長についていく気持ちに変わりはありません」

 

「そうか」

 

「では失礼致します」

 

俺はその場を後にした。

 

マンションに戻る前に冬木の様子を見に行った。

 

「社長、お忙しいところ申し訳ありません」

 

「なに言ってるんだ、お前がめぐを助けてくれなければ、めぐはどうなっていたか、想像すると背筋が凍る思いだ」

 

「めぐみさんは大丈夫ですか」

 

「全く表情がなくなった」

 

「自分が刺されたのを見て、相当のショックだったようです」

 

「俺達は慣れてるが、めぐにしてみれば、目の前で人がさされて血の海になったんだからな、

気が動転するのが当たり前だな」

 

「めぐみさんを見てやってください」

 

俺は病院を後にした。

 

マンションへ戻ると、部屋は真っ暗で、ぽつんとめぐが座っていた。

 

「めぐ、ただいま、どうしたんだ、電気もつけないで」

 

めぐはじっと俺を見つめてなにも言わない。

 

俺はめぐの腕を引き寄せ抱きしめた。

 

「いや」

 

めぐは恐怖におののくような眼差しで俺を見つめた。

 

少しずつ、後退りして、俺から離れようとしていた。

 

「めぐ、俺のことがわからないのか」

 

俺は焦りを感じて、思わずめぐの腕を掴んだ。

 

「いや、離して、いや、いや」