第ニ章 お前は俺の命だ②-2
「そうか」
その時、組長さんは廊下に向かって叫んだ。
「動物園のクマじゃあるまいし、ウロウロしているんじゃない、入れ」
「失礼します」
鷹見さんが入ってきた。
「全く、そんなにお嬢さんが大事か」
「はい」
鷹見さんの言葉にまた驚かされた。
「よし、帰ってよい」
「失礼致します」
鷹見さんと私はマンションへ戻った。
私は鷹見さんに聞いてみた。
「戸部建設の商業施設建設の仕事を請け負うって、どう言うことですか」
「そのままの意味だ」
「鷹見さん、社長さんなんですか」
「ああ、今は極道って言っても、それは裏の顔で、表向きはちゃんと仕事をしている、堅気の仕事と変わりない」
そうなんだ、確かに裸にならなきゃ刺青もわからないし、スーツを着こなしている鷹見さんは、どっからどう見ても、堅気にしか見えない。
まさにエリート極道って感じだ。
「めぐ、組長の話はなんだったんだ」
「あ、鷹見さんの側にずっといたいかと聞かれました」
「なんて答えたんだ」
鷹見さんは私をじっと見て答えを待った。
「ずっといたいですって答えました」
「そうか」
なんか安心したようなホッとしたような表情に見えた。
「それから、極道に抵抗はないかって聞かれたので、ないですって答えました」
「めぐ、お前を一生離さないから覚悟しろ」
鷹見さんは私を抱き上げて、ベッドルームへ運んだ。
私は全身が震えて、もっと感じたいと願っていた。
鷹見さんは建設会社の仕事である商業施設建設を請け負う為、戸部建設と交渉を開始した。
戸部建設副社長は交渉には応じず、難航を極めた。
鷹見さんは毎日忙しくて、私は先にベッドに入る日々が続いた。
そんなある日、マンションのインターホンが鳴った。
「はい」
「はじめてお目にかかります、鷹見建設会社の冬木斗真と申します、社長から頼まれましてめぐみ様の様子を見に参りました」
「すぐ、開けます」
私はオートロックを解錠した。
その男性は入口で、また挨拶をしてくれた。
「いつも社長がお世話になっております」
その男性はじっと私を見つめたまま、動かなかった。
「お世話になってるのは私の方です、牧瀬めぐみと申します」
スーツがよく似合う、メガネをかけた堅気にしか見えないその男性は
しばらくしてから言葉を発した。
「社長から話を聞いてどんな女性か想像していました、想像以上です、社長が惚れ込んだのが納得いきます」
「あのう」
「失礼致しました、何か困っていることがありましたら何なりと申し付けください」
「特にありません」
「そうですか」
私はこの人も極道なのかな、もしかして堅気?
どうしても気になったので聞いてみることにした。
「あのう、冬木さんも極道の方ですか」
「はい」
「見えないですね」
「そうでしょうか、これでも背中に刺青背負ってます、ムショにも世話になったこともあります」
「そうなんですか、恋人の方はどんな感じの女性ですか」
「今はいません」
私は思い切って鷹見さんに聞けないことを聞いてみた。
「あのう、鷹見さんは女の人がたくさんいるようなんですが、皆さん若くて可愛らしい方々なんですよね」
「めぐみさんだけだと聞いてますが」
「でも、三週間くらいしてないから、ほかの女性を愛しているのかなって思って」
「そうですか、三週間全く、女の影はありませんでしたよ」
「そうですか、よかった」
「ではこれで失礼します」
なんて可愛らしい女性なんだ。
冬木さんにそんなふうに思われたなんて想像もつかなかった。