第八章 一夜の秘め事
俺は不労者をまりえさんから引き離し、まりえさんを抱き起こした。
不労者は「悪い、悪い」そう言ってその場を去った。
「まりえさん、大丈夫ですか」
まりえさんは俺に抱きついて泣きじゃくっていた。
このまま放っておくことが出来ず、俺はまりえさんを抱きしめた。
俺がついていながら何たる失態だ。
しばらく経って、まりえさんが落ち着きを取り戻した。
「申し訳ありません、自分がついていながら大失態を犯しました」
「大丈夫、私がもっとちゃんとしていればいいのに、お父様が心配するのは当たり前ね」
「もうこんな思いはさせないと約束します、十年前にもそう思って、そのためにボディーガードになったのに、俺は……」
溢れる思いをそのまま口にしてしまった。
「十年前何かあったの」
まりえさんの言葉で、我にかえり「なんでもないです」と言い訳したが後の祭りだった。
「教えて、何があったの」
俺は仕方なく十年前からまりえさんを知っていたことだけ話した。
十年前の事件のことはまりえさんの記憶にはないようだと小出氏から聞いていた。
「実は十年前からお父様を存じ上げていました」
「えっ」
「まりえさんのことも」
「そうだったの」
「お父様からまりえさんのボディーガードを依頼出来る人物の相談を受けていました、それなら自分がやりますと実績を積んで今回お父様から依頼を受けたんです」
「こんな思いって十年前にも同じようなことがあったの?私の何を知ってるの」
「何もありませんよ」
私は真山さんが何か隠していると感じた。
気まづい雰囲気でしばらくベンチに腰を下ろして動かなかった。
「真山さん」
「はい」
「さっきこんな思いはさせないと誓いますって言ってくれたでしょ」
「はい」
「本当?」
「本当です」
「それなら、私をずっと守って」
「許されることなら自分もそうしたいです、でも……」
「ずっとが叶わないならせめて今夜だけでもお願い、真山さんの側にいさせて」
「分かりました」
それから私の実家に戻り、真山さんはお父様の許可をもらうためインターホンを鳴らした。
「おお、真山くん、ご苦労だったな、あれ、まりえは……」
俺は深々とお辞儀をした。
「申し訳ありません、自分のミスです、ちょっと目を離した隙に、まりえさんを怖い目に合わしてしまいました、何もなかったのですが、まりえさんに今夜一緒に居たいと言われて説得出来ませんでした」
「それで?」
「今夜一晩まりえさんをお預かりする許可を頂きたいのですが……」
「一晩だけか?」
「いえ、許されるのであれば生涯ずっと守っていきたいです」
「そうか、わかった、とりあえず今夜一晩よろしく頼むよ」
「はい、失礼します」
私は車の中で待っていた。
お見合い相手と結婚して、旦那様になる人とはじめてなんて絶対に後悔する。
たとえ、私に対して気持ちがなくても、ボディーガードとしての責任で守ってくれるんだとしても、私は真山さんと一夜の思い出を経験して、その思いを秘めて嫁ぎたい。
そんなことを考えていた時、真山さんが戻ってきた。
「お父様の許しは貰えた?」
「はい、一晩だけと」
「そうなんだ」
「それでは自分のマンションに向かいます」
マンションに向かう車の中で沈黙が続いた。
マンションに到着して、部屋に入った。
「今日はお疲れでしょうから、シャワーを浴びておやすみください、明日ご実家までお送りします」
「はい」
シャワーの水が私の身体を流れていく。
真山さんに抱かれたい、そんなことを考えると、頬が高揚して鼓動がドクンと跳ねた。
シャワールームのドアガラスに真山さんがウロウロしている姿が目に止まった。
シャワーのコルクを絞めると静かになり、真山さんが声をかけてきた。
「まりえさん、大丈夫ですか」
「大丈夫よ」
「この間のことがあったので、心配で……」
「今、出るからリビングに行ってて」
「あ、すみません」
真山さんの姿はガラス越しに小さくなった。
リビングに向かうと、真山さんはスマホを見ていた。
「それでは、自分もシャワー浴びてきます、先におやすみになっていてください」
真山さんはシャワールームに消えた。
私は寝室に入り、心臓の鼓動を鎮めていた。
真山さんがシャワーから出て、キッチンで冷蔵庫を開けてミネラルウオーターを喉に流し込んでいる音が聞こえた。
「さゆり、大丈夫か、ああ、そうだな、また連絡するよ」
真山さんは義理の妹さんと電話している様子だった。
妹さんとは血の繋がりがないんだから、妹さんを好きなのかな。
私は思い切って寝室のドアを開けて、真山さんに声をかけた。
「真山さん」
「まりえさん、どうされたのですか」
私は真山さんに近づき、顔を見上げた。
「私の依頼を受けて」
「依頼ですか」
「私はこれからお見合いの相手と結婚するの、このことは避けては通れない、だからその前にはじめてを経験したいの、全然わからないし、私の身体どうなっちゃうか不安で」
「この間、依頼を受け……ん、ん〜ん」
嘘、私、キスされてるの?
真山さんは私を抱き上げて、寝室に運んだ。
ベッドに身体が沈んで「目を閉じて」真山さんの甘い声が耳元で囁かれた。
彼の唇が首筋から鎖骨へ移動する。
スエットを脱がされて、下着の上から胸を鷲掴みにされた。
「いや、怖い」
「大丈夫、そのまま、感じて」
「ああ、あ〜ん、なんか身体がじんじんしてきた」
「それが当たり前の反応だから」
「真山さん、キスして」
「まりえ、亮って呼んで、相手の名前を呼ぶともっとドキドキしてくるから」
「亮」
「まりえ、こっちも触れるよ」
亮はキスをしながら舌を割り入れてきた。
そして、私の太腿に触れて、ボトムの中に手を入れてきた。
足を開くことに抵抗していた私はあっけなく感じる部分に到達されてしまった。
なんか今まで味わったことがない感覚にどうしていいかわからなかった。
でも一つだけわかったのは、亮って名前を呼んだら、ドキドキが加速した。
そして、亮に触れられることが嫌じゃない。
亮が大好き。
いっぱいキスしてほしいし、なんかもっともっとって思っちゃう。
はじめてなのにこんなに感じちゃって大丈夫かな。
その時、興奮がドンドン昇り詰めていき、身体が仰け反って最高潮に達した。
「まりえ、可愛い、ほら、俺も最高潮に達したいって言ってる」
亮は私の手を彼自身に触れさせた。
私はびっくりして手を引っ込めた。
「これからが本番だよ」
「ねえ、一つ聞いてもいい、誰とでも名前呼び合ったら、最高潮に達すること出来るの?」
「いや、相手をどの程度愛しているかってことだと思うよ」
そして私は亮とはじめてを経験した。
私は亮を愛していると確信した。
でも亮は誰が好きなの?
私のことは依頼だから抱いてくれたんだよね。
私はこれでお見合い相手と結婚出来ると思った。
朝、目が覚めると、隣に寝ていたはずの亮がいない。
寝室からキッチンに向かうと、朝食の支度をしていた。
「まりえ、おはよう、顔洗っておいで」
亮、敬語じゃない、えっ、どう言うこと。