第二章 やつは突然やってきた

 

 

意地の悪い最上がそう簡単に引き下がるわけはなく、俺がマンションに帰宅した後に奴はやってきた。

 

「ただいま、真由香さん?」

 

俺が帰宅した部屋は泥棒が入ったのではないかと思うくらいに物が散乱していた。

 

キッチンは真っ黒こげのフライパンと電子レンジが爆発したかのように悲惨な状態だった。

 

「どうしたんですか」

 

「先生、ごめんなさい、フライパンを焦がしちゃったの、それからアルミ箔で包み焼き作ろうとして電子レンジに入れたら、バチバチって火花が出て、もうびっくりしちゃって、洗濯物を畳もうとしてハンガーから外したんだけど、もう先生帰ってきちゃって……」

 

「そう言う事、まずアルミ箔は電子レンジに入れたら駄目ですよ、それからフライパンも水を入れないと焦げちゃうし、同時進行は真由香さんは苦手みたいだから、これからは一つ一つやった方がいいかもしれませんね」

 

「ごめんなさい」

「大丈夫、大丈夫」

 

俺は口ではそう言いながら、まじかよと呆れていた。

 

そんな時インターホンが鳴った。

 

インターホンの画面に映し出されたのは最上丈一郎だった。

 

「最上、何しにきたんだ」

 

俺は驚きを隠せなかった。

 

「開けてくれ、お前が慌てるところを見ると女と一緒だろ」

 

その時、真由香さんがインターホンの画面の前に出てきて最上に挨拶した。

 

「始めまして、真由香です」

 

俺は慌てて真由香さんを後ろに追いやった。

 

「真由香さん、インターホンに出なくていいから」

 

そんな俺と真由香さんの様子がわかったらしく最上はニヤッと笑って言葉をかけた。

 

「大我、開けてくれ、お前の女を紹介してくれよ」

 

まずい、最上は真由香さんを俺の彼女と勘違いしてしまった。

 

「だから、違うって」

 

もう、仕方ない、俺はオートロックを解錠し、最上を招き入れた。

 

「どうしたんだ、泥棒でも入ったのか」

 

悲惨な状態の部屋を目の当たりにして最上が叫んだ。

 

「始めまして、松本真由香です」

 

「俺は最上丈一郎、最上総合病院の外科医だ、俺にかかれば治らない病気はない」

 

「大我先生と友達ですか」

 

「ああ、最上総合病院をこいつと盛り立てていく」

 

「そうなんですか」

 

「真由香は大我の女だろう」

 

「はい」

 

もう勝手に話をするな、しかも真由香さんはいつの間にか俺の彼女になっている状況にすかさず否定した。

 

「違うよ」

 

「おい、大我、女がそうだと言ってるのにそれは失礼だろう、なあ、真由香」

 

「大我先生は私に魅力を感じてくれないみたいで、私は大我先生の事を大好きって告白してるのに……」

 

「へえ、そうなんだ」

 

おいおい、二人で盛り上がってるんじゃねえよ。

 

「最上、違うからな、真由香さんは患者だ」

 

「ほお、患者が食事の支度したり、洗濯物取り込んだりするのか、しかもお前は自分のマンションに患者を泊まらせるのか」

 

「見ての通り、食事は出来てないし、洗濯物もこれじゃあ取り込んだとは言わない」

 

「ごめんなさい」

 

「大我、いい加減認めろよ、お前は真由香が好きなんだろう」

 

「いや、その、えっと……」

 

俺は最上に突っ込まれて誤魔化しきれずにいた。

 

「先生、ほんと?真由香の事好きなの?」

 

「患者として心配しているだけです」

 

「先生、素直じゃないんだから」

 

「本当だよな、真由香、こんな堅物やめて俺にしないか」

 

最上、何言ってる、どさくさに紛れて口説いてるんじゃねえよ。

 

「駄目だ、とにかく最上は帰れ」

 

「わかったよ、これからお楽しみか」

 

「違う、真由香さんとは寝室は別だ」

 

「そう剥きになるな、本当に大我は生真面目なんだからな」

 

「最上がいい加減すぎるんだろう」

 

最上は俺の言葉を無視して真由香さんに話しかけた。

 

「真由香はいくつだ」

 

「二十歳よ」

 

「おい、犯罪だぞ」

 

「バカ言え、未成年じゃないし、親の許可を得ている」

 

「へえ、家族ぐるみの付き合いか」

 

「だから違うと言ってるだろう」

 

「ほら、あんまり大我が違うって言うから、真由香が落ち込んだぞ、今晩ぎゅっと抱いてやれ」

 

「そ、そんなことはしない」

 

最上は「じゃあな、張りきれよ、大我、真由香を喜ばしてやれ」そう言ってマンションを後にした。

 

「全く最上はどうしてデリカシーがないんだ」

 

「でも最上先生は本音で話せる男性だよね」

 

「真由香さん、俺を好きだなんてその場の雰囲気で言わない方がいいと思うけど」

 

「大我先生、全然女心分かってないんだから……」

 

彼女の言っていることが俺には理解出来なかった。

 

真由香さんは家出同然で俺の元にやってきた。

 

なんで俺なのか分からなかったが、真由香さんのお父さんが心配しているだろうと思い、連絡をとった。

 

「最上総合病院の日下部大我と申します、先日お嬢様の真由香さんとお見合いをさせて頂きました、今、真由香さんは自分の元に身を寄せています、しばらくお見合いはしたくないと申しております、聞き入れて頂けるまで帰らないと真由香さんの意志は固いようなので、自分の元で預からせて頂けないでしょうか」

 

「すまん、娘が君を頼ったのには訳があるんだろう、わがままな娘だが、明るくて優しい気持ちは母親譲りだ、申し訳ないがよろしく頼むよ」

 

と言われて引き受けたが、扱いに相当困っている。