第七章 頭でわからないなら、身体でわからせてやる

 

「だって、まだ最上さんを愛していると言われて……」

 

「それなら俺と離婚すると言うことか」

 

「それは、最上さんが瑞穂さんとどうしてもよりを戻したいって思ってるなら、

私は離婚されても仕方ないと思っています」

 

「借金、耳を揃えて返せるのか」

 

「返せません」

「なら、答えはもう出てるだろう」

 

私はどう言うことかわからなかった。

 

「お前は俺の妻としての自覚が足りない、これからは俺の妻だとはっきり言え」

 

「でも……」

 

「頭でわからないなら、身体でわからせてやる」

 

最上さんは私を引き寄せ唇を塞いだ。

 

今までにないくらいの激しいキスだった。

 

舌を割り入れて、私の舌に絡み付いた。

 

そのまま私を抱き抱えて、寝室へ運んだ。

 

そのまま最上さんは私と身体を重ねて「梨花、梨花」と耳元で囁いた。

 

服の上から胸に触れた。

 

私はビクッと身体が震えた。

 

「梨花、俺のものになれ」

 

最上さんは私の服を脱がせて、一糸纏わぬ姿にさせられた。

 

最上さんもシャツを脱ぎ捨て、鍛えられた上半身が露わになった。

 

私に覆い被さって身体が重なった瞬間「痛い」と大声をあげる私。

 

「おい、まだ何にもしてないぞ」と慌てる最上さん。

 

「足、足がつったんです」

 

「はあ?」

 

そう、はじめてを奪われる瞬間、私の足がつった、激痛に涙が止まらない。

 

「あっ、ううっ、痛い」

 

最上さんは私を抱き起こし、身体に毛布をかけてくれた。

 

最上さんは裸のまま一生懸命私の足をさすってくれた。

 

段々と痛みも和らいできて、涙も止まってきた。

 

「大丈夫か」

 

最上さんの問いかけに顔をあげると、目の前に最上さんの裸の身体が……

 

もう、恥ずかしくて、どうしていいか分からず「服、服着てください」と、

 

叫んだ。

 

「ああ」

 

最上さんはベッドの下にあるシャツを着た。

 

私はベッドの下に散乱している自分の下着や服に目が止まり、毛布にくるまっている自分の身体を恐る恐る見た。

 

「私、どうして裸なの」

独り言のように呟くと「今更何言ってるんだ、もう足の痛みはなくなったのか」と

最上さんは私を覗き込んだ。

 

「足の痛みはだいぶいいです、あのう、見ちゃいました?」

 

「何を?」

 

「私の身体」

 

「しっかり見せてもらった、お前の幼児体型」

 

私は頬を膨らませて「最上さん、大っ嫌い」とそっぽを向いた。

 

最上さんは私を背中から抱きしめた。

 

「バカ、幼児体型に反応するわけないだろう」

 

そう言って私を自分の方に向かせて、私の手を最上さん自身に触れさせた。

 

はじめて触れた男性自身に、びっくりして手を引っ込めた。

 

「はじめてでも、多少の知識はあるだろう、幼児体型に反応はしない」

 

そして最上さんは言葉を続けた。

 

「よく聞け、俺は梨花と離婚はしない、立花瑞穂とよりも戻さない、お前は俺の側で生涯を過ごせ、いいな」

 

そう言って最上さんは私の唇にそっとキスをした。

 

「よし、続きをするか」

 

「えっ?」

 

「えっじゃねえよ」

 

「駄目です」

 

「駄目?俺のここ、どうしてくれるんだよ」

最上さんは自分自身を指さした。

 

「知りません」

私は恥ずかしくて背中を向けた。

 

最上さんは後ろから私を抱きしめて、首筋に唇を押し当てた。

 

「ああ、ん〜ん」

 

駄目って言いながら私は最上さんのキスに反応してしまった。

 

「なんだよ、駄目って反応じゃないな」

 

このまま私のはじめてが奪われるの?って期待した瞬間、最上さんは私から離れた。

 

そして私の足に触れて「まだ筋肉が硬直してるな、今日はお預けな、シャワー浴びてくる」

 

そう言って最上さんはシャワールームへ消えた。

 

ぽつんと一人残された私は、身体が熱ってくるのを感じた。

 

そして、最上さんに抱きしめて欲しいって強く願った。

 

もう、最上さんから離れられない自分がいた。

 

それから最上さんは毎日帰りが遅くなった。

 

救急搬送された患者さんの処置や、緊急手術、外来も最上さんに診察して欲しいと患者がひっきりなしでやってくる。

 

難しい手術もあっさりとこなし、いつも帰ってくるのは午前様だった。

 

私はもうすでに夢の中だった。

朝も私が起きる時間には病院に行っていた。

 

全然話出来ないよ、もしかして、私、避けられてるのかな。

 

がっかりしちゃって、私を抱く気持ちが萎えちゃったのかな。

何週間か経ったある日、最上さんは電話をくれた。

 

「梨花、大丈夫か」

 

「最上さん、どうしたんですか、こんな時間に」

 

「やっと休憩がとれたところだ」

 

「お疲れ様です」

 

「足、どうだ、ちゃんと薬を飲んでいるか」

 

「はい、大丈夫です、お薬も飲んでいますよ」

 

「そうか、内科に頼んだ血液検査で貧血気味の結果があったから増鉄剤処方してもらったから、ちゃんと飲めよ、ちょっとでもふらついたら、無理しないでしゃがみ込めよ、いいな」

 

「分かりました、時々ふらつくのって貧血気味なんですね」

 

「そう言うことは早く言え」

 

「骨折も実はふらついてギクっとしたんです、さすが優秀ですね」

 

「褒めても、借金は減額しない、元々俺は優秀だからな」

 

「はいはい、分かりました」

 

「なんか久しぶりだな、梨花と話すの」

「そうですよ、ずっと一人で寂しくて」

 

「へえ、早く俺に抱かれたいって」

 

「もう、そんなこと言ってません」

 

「俺は早く梨花を抱きたい」

「最上さん」

 

私はこの間の最上さんとの抱擁を思い出していた。

 

「もう切るぞ」

 

そしてスマホは切れた。

 

最上さんは私の貧血を心配して連絡くれたのかな。

 

そう、私は貧血気味で、足首の骨折もふらつきが原因だった。

 

そんな時、私の人生を大きく揺るがす出来事が起こった。

 

以前私はプロポーズされたことがあり、でもその彼とは別れることになった。

 

それは十年も前の事だった。

 

二十八歳の時、あるホテル業界の御曹司と知り合った。

 

三葉純一、三葉ホテルの副社長だった彼は、自分の身分を偽り、私と付き合うことになった。

 

当時コンビニで働いていた私は、ギリギリの生活をしていた。

 

削るとしたら食費しかない。

 

お腹が空いた。

 

もう、ふらついて歩けない。

 

今思うと、この頃から貧血があったのかもしれない。