ラヴ KISS MY 書籍

 

 

第六章 俺の側にいるって言うに決まってる、なあ、梨花⑥-2

 

 

結婚しても、この生活は変わらない。

 

そんな矢先、丈一郎さんの医学部時代の同期である安藤さんが訪ねて来た。

 

「こんな時間まで奴は仕事?」

 

「はい、あのう……」

 

「あっ、失礼、俺は最上と医学部の同期の安藤英人、よろしくね」

 

「私は丈一郎とお付き合いしています立花瑞穂です」

 

「最上と結婚するの?」

 

「はい」

 

この時私は迷っている心のうちを安藤さんに見抜かれていた。

 

「そうなんだ、でもどうしようかなって思ってるって顔に書いてあるけど」

 

「えっ」

 

私は自分の顔を手で触った。

 

「うっそ、瑞穂ちゃん、可愛いね」

 

「飯、まだだろ?どうせ、最上は午前様なんだろう?一緒に食いに行こうよ」

 

「でも……」

 

この時、丈一郎さんとは真逆の安藤さんに心惹かれはじめていた。

 

それから毎日、安藤さんはマンションにやってきて食事に付き合ってくれた。

 

私の寂しい気持ちを埋めてくれたのが安藤さんだった。

 

そして、男女が一緒に時間を過ごせば、当然の如く、見つめ合い、キスをして、

 

身体の関係まで進むのに時間は掛からなかった。

 

食事の帰り、私は帰りたくないと安藤さんとホテルに入った。

 

安藤さんは私を抱きしめて唇を重ねた。

 

彼の舌が入り込んで、心臓の鼓動がバクバク言いはじめた。

 

彼の手は私の胸に触れて、大きく動かした。

 

毎日、一緒にいるのに、丈一郎さんとは三ヶ月ほどご無沙汰状態だった。

 

私の身体は火がついたように激しく燃え上がった。

 

ブラウスのボタンが外されて、彼は私の胸の膨らみにキスをした。

 

背中が仰け反り、甘い吐息が漏れた。

 

「瑞穂ちゃん、感度いいね、もしかしてご無沙汰だった?」

 

「はい、三ヶ月ほど」

 

「嘘だろ、最上は何をやってるんだ、俺が瑞穂ちゃんを満足させてやるよ」

 

そう言うと、彼は手をいきなり、下着の中に入れて私の反応を楽しんだ。

 

頭がくらくらして、身体が燃えるように熱くなり、恥ずかしい状態になった。

 

それから毎日のように安藤さんと身体を重ねた。

 

「なあ、瑞穂ちゃん、最上と別れて、俺と付き合おうよ」

 

私は頷いていた。

そんなことになっているとは思いもよらず、その頃の最上は自分中心の

 

生活を優先していた。

 

俺は瑞穂が寂しい思いをしているなど想像も出来ずにいた。

 

仕事から帰ると、瑞穂が作ってくれた食事をたべ、シャワーを浴びて寝る、そんな生活だった。

 

瑞穂は何か話をしたいようだったが、俺が聞く耳を持たなかった。

 

話しかけるなオーラを目一杯出していた。

 

瑞穂は気遣いが出来る女だ、そんな俺の性格も分かっていた。

そして、病院の外線で瑞穂から別れを告げられた。

 

安藤と浮気したことは安藤から聞かされた。

 

「瑞穂ちゃんと別れたんだって?」

 

「なんでお前が知ってるんだ」

 

「瑞穂ちゃんと寝たのが俺だからだよ」

 

「てめえ」

 

俺は安藤の胸ぐらを掴み殴った。

 

「痛え、いきなり殴るかな、瑞穂ちゃんを放っておいたのは誰だよ」

 

「それが他の男と寝ていい理由にはならない」

 

「寂しい思いをさせておいて勝手なこと言うんじゃない」

 

「もう、俺には関係ないことだ、瑞穂はお前を選んだんだからな」

「残念ながら瑞穂の心の中に俺はいないようだ」

 

「どう言うことだ」

 

「瑞穂は最上、お前を愛している」

 

「俺は別れを告げられたんだ、去るものは負わない主義だ」

 

「おい、最上」

 

俺を呼び止める安藤の声は俺には届かなかなかった。

 

あれから七年の歳月が流れた、今更瑞穂は何しに来たんだ。

 

患者としてもわざわざ俺の病院に来るなんてどう言うつもりだ。

 

寄りを戻す気持ちも許す気持ちもなかった。

 

私はレントゲンを撮って貰い、診察のため待っていた。

 

最上さんの診察も無事終わった。

 

「梨花、帰りはタクシーで帰れよ、俺の指示に従わない時は

お前のはじめてを俺がもらう、覚悟しておけ」

 

「ちゃんと言うこと聞きます、あんな痛い思いはしたくないし、最上さんにはあげません」

 

「ほお、強気に出たな、この唇に抱いてくださいって言わせて見せる、覚悟するんだな」

 

そう言って最上さんは人差し指で私の唇に触れた。

 

ピクッと震えて、顔が真っ赤になった。

 

「気をつけて帰るんだぞ」

そう言って最上さんはニッコリ微笑んだ。

 

心臓がドクンっと跳ね上がった。

 

言葉で強気なこと言っても、私は最上さんが好き、徐々にはじめてを捧げるなら最上さんがいいと思うようになっていた。

 

会計は最上さんが済ませてくれていたから、タクシーを呼んで帰るだけだった。

 

そこに、一人の女性が声をかけてきた。

 

「あのう、先ほど最上先生とお話されていましたが、どの様なご関係ですか」

 

急に声をかけられて、しかも最上さんとの関係を聞かれてすぐには答えられなかった。

 

「ごめんなさい、急で驚かれましたよね、私は以前最上先生にお世話になった立花瑞穂と申します」

 

えっ、立花瑞穂さん。

 

最上さんの元彼女だ。

 

やっぱり寄りを戻そうとやってきたと言う噂は本当だったんだ。

 

どうしよう、なんて答えればいいの?

 

「あ、足首を骨折して、最上さん、じゃなくて最上先生に手術して頂いたんです」

 

「そうですか、担当医師と患者さんの関係ですね」

 

「は、はい、そうです」

「実は七年も前になるんですが、最上先生と結婚の約束をしていたんです、でもお互いのすれ違いで、別れたんですが、私は今でも彼を愛しています、もう一度やり直したいと思っています」

 

やっぱり、そうなんだ。

 

「患者として話するチャンスがあればと思ったんですが、なんかタイミングが合わなくて、

そうしたらあなたがとても最上先生と親しげに話しているのを見かけて、

私の味方になって欲しくて、初対面なのに失礼かと思ったんですがお声かけさせて頂きました」

 

どうしよう。

 

「お名前をお聞きしてもよろしいですか」

 

「名前ですか」

 

「はい」

 

「鶴巻梨花といいます」

 

私は咄嗟に旧姓を名乗った。

 

「私の味方になって頂けますか」

 

「分かりました、今度、診察の時に最上先生に話してみます」

 

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

 

そして、立花瑞穂さんはその場を後にした。

 

私はタクシーでマンションに戻り、今晩、最上さんが帰ってきてから話をしてみることにした。

そして、処方された薬を飲むと、ソファで眠ってしまった。

 

目が覚めると、最上さんがわたしの顔を覗き込んでいた。

 

「きゃっ、びっくりした」

 

「薬飲んだのか」

 

「はい、そうしたらなんか眠たくなって、すみません、食事の用意はしていません」

 

「別に構わない、薬が効いたんだろ」

 

「えっ?」

 

「睡眠薬入れといたからな」

 

「嘘!」

 

「ほんと、梨花が眠っている間にはじめてを頂こうかと思ってな」

 

私は頬を膨らませて怒った表情を見せた。

「そんなに俺にキスして欲しいのか」

 

「違います」

 

「なんだ、違うのか」

 

「あのう、今日病院で立花瑞穂さんに会いました」

 

「立花瑞穂?ああ患者として通ってるみたいだな」

 

「最上さんの患者さんですか」

 

「いや、違う、それがどうかしたのか」

 

「よりを戻したいって言ってました」

 

「それで」

 

「その旨を伝えて欲しいって言ってました」

 

「お前、俺の妻だと言ったのか」

 

「言えませんでした」

 

「どうしてだ」