ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

第五章 ずっと一緒ね

 

そう言って、僕は玲子の身体を囲って「僕の腕の中に玲子はいる、誰も入って来れないように鍵をかけちゃおうな」僕は笑顔を玲子に向けて、おでこにキスをした。

 

玲子はちょっと落ち着きを取り戻した。

それから、僕は警察に連絡を取った。

 

そして、玲子の親父さんにも、今回の事を報告した。

 

玲子の親父さんは、玲子の旦那に都築総合病院を辞めるように促した。

 

弁護士にも相談して、離婚が成立する様に話を進めて貰った。

 

玲子は相当のダメージを受けた。

 

僕は毎日玲子の病室へ足を運んだ。

 

僕には少し笑顔を見せてくれるようになったが、その笑顔は相当無理をしている様子が伺えた。

 

「玲子、退院したら、二人で旅行に行こうか」

 

「旅行?」

 

「ああ、そうだ」

 

「光と一緒?」

 

「もちろん、ずっと一緒だ」

 

「良かった」

 

「また、明日な」

 

「光?どこに行くの?」

 

「一旦、うちに帰ってまた来るよ」

 

「私も一緒に行く、一人はいや」

 

玲子は僕の胸に顔を埋めて、首を横に振った。

「いや、一人はいやよ」

 

「わかった、わかった、それなら一緒に行こう」

 

僕は玲子の外泊許可を申請して、車でマンションへ向かった。

 

玲子は神経が過敏になっており、住み慣れたはずのマンションの部屋に入るのも躊躇した。

 

「どうしたんだ、玲子、ここは僕と玲子が住んでいたマンションだよ」

 

「光と一緒に住んでいたマンション?」

 

「そうだよ、一緒に入ろう」

 

僕は玲子と手を繋いで一緒に部屋に入った。

 

今の玲子は僕を頼り切ってくれている。

 

その行動、一つ一つが可愛くて仕方がない。

 

これから先、大変な事はたくさんあるだろう。

 

しかし、二人で生きていければ僕は幸せだった。

 

着替えを用意して準備をしていた。

 

リビングにいた玲子が僕の名前を呼んだ。

 

「光、光」

 

「どうした、玲子、僕はちゃんとここにいるよ」

玲子は気持ちが不安定になると、一人でいる事に恐怖を感じる。

 

そして、それがいやな記憶に直結してしまうのだ。

 

「ギュッとして、光」

 

「わかった、玲子、ぎゅっ」

 

まるで子供に返ってしまったような言動や振る舞いに、ちょっと戸惑った時もあったが、

 

僕は精神疾患について日夜勉強した。

 

個人差があるため、とても難しいのが本音だ。

 

僕はしばらく大学病院の勤務を休む事にした。

 

玲子といつも一緒にいるためだ。

 

いま、玲子の側にいてあげないと、後悔してしまう気がした。

 

朝、目覚めると一緒にキッチンへ移動して、朝食の準備をする。

 

そして、一緒に朝食を食べる。

 

どこかが触れていないと、不安になるためいつでも玲子の表情を確認しながら行動した。

 

なるべく刺激を与えないように配慮した。

 

そんな毎日に、僕に疲れが現れてきた。

 

眠れない日が続いた。

 

このままでは僕が参ってしまう。

そんな矢先、僕の弟、戸倉慶が遊びに来た。

 

「はじめまして、兄貴がお世話になっています、弟の戸倉慶です」

 

慶の笑顔は玲子の心を和ませてくれた。

 

「はじめまして、都築玲子です、私がお兄さんにお世話になっているんです、ごめんなさいね、戸倉家からお兄さんを取ってしまって」

 

玲子はちょっと表情を曇らせて俯いた。

 

「なんか飲むだろ、待ってろ」

 

僕はキッチンへ向かった。

 

「ああ、大丈夫です、親父もはじめから会社は俺にって言ってくれてましたし、

俺は五歳の時の初恋の女性と結婚出来れば文句無いんで、でも兄貴にはまだ内緒でお願いします」

 

私はびっくりした表情を見せた。

 

五歳の時の初恋の女性と結婚?

 

大人になっても幼き頃の思いを寄せていた女性を好きだなんて、なんて純粋で素直な心の持ち主なの?

 

少年のような気持ちのまま大人になった感じで、そう言えば光もそう言うところあったな。

光も変わらずそんな少年のような気持ちを持ち続けているのに、私は信じられなくて、光の一途な愛を疑っていた。

 

皆、私に近づいてくる男性は、私を愛しているんじやない、都築総合病院が欲しいだけ、そう思っていた。

 

光もそんな男性達と一緒だと。

 

でも、こんなに純粋な、一途に幼き頃の初恋を貫き遠そうと思っている人と兄弟なんだよね、光は。

 

忘れてた、光も純粋な一途な愛情を私に注いでくれていたことを。

 

ごめんなさい、光。

「玲子さん、大丈夫ですか?」

 

「兄貴、玲子さんが……」

 

「えっ?玲子大丈夫か?」

 

「お前、玲子になにしたんだよ」

 

「俺は何にもしてないよ」

 

その時、玲子が僕の袖を引っ張って「光、違うの、慶くんは悪くないから、私がちょっと泣き虫なだけ、大丈夫よ、光と一緒で幸せよ」

 

「玲子」

 

「お二人さん、熱いね」

 

「からかうんじゃねえよ」

慶はしばらくして「また来るよ」と言って帰った。

 

玲子の様子が気になったが、少し見守る事にした。

 

それから、玲子は部屋の中を一人で動き回るようになった。

 

以前は僕の存在を確かめるように、どこかに触れていないと心配みたいで、一人で動き回らなかったのに。

 

僕はハッと気づいた。

 

慶の存在か?

 

あいつの純粋な、子供みたいな気持ちが、玲子の凍りついた心を溶かしていったって事なのか。

 

完敗だった。

僕は玲子に聞いてみた。

 

「玲子、僕に対して不安があったのか、それならごめん、僕は……」

 

「光、私の方こそごめんなさい、光の気持ちに気づけなくて、わかっていたはずなのに、忘れていたみたい、慶くんの話を聞いて思い出したの」

 

「慶とどんな話をしたんだ」

 

玲子はニコッと笑って「ナイショ」と人差し指を自分の唇に当てた。

 

そんな姿が可愛くて、玲子を抱き寄せた。

 

唇にキスをした。

僕は玲子を愛していたのに、いつの間にか、信じて貰えていないのかと疲れがピークに達していて、玲子の気持ちに気づけずにいた。

 

玲子もまた、僕に対して不安が大きくなり、信頼出来ない気持ちがあったようだ。

 

慶のおかげで僕と玲子はお互いを見つめ直す事が出来た。

 

僕は精神科医として、まだまだ勉強不足なのかもしれないと気づいた。

 

しばらくして、僕は仕事復帰をした。

 

玲子も一人で留守番が出来る様になった。

 

玲子の離婚は弁護士の働きにより、離婚が成立した。

 

僕は玲子と一緒に剣崎の墓参りに出かけた。

 

「剣崎、僕と玲子は結婚するよ、見守ってくれ」

 

「剣崎くん、私、光を信じて着いていこうと思ってる、見守ってね」

 

僕と玲子は一年後に入籍をした。

 

僕は都築総合病院を継ぐことを、玲子の親父さんと約束をして、都築姓を名乗ることになった。

都築光、都築総合病院の精神科医、妻玲子と共に歩んで行く覚悟を決めた。

 

 

                   END