ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

第八章 告げられた真実

 

俺はパニック寸前だった、行方不明の亜紀が、親父と一緒なんて。

 

「亜紀は俺が結婚したいと言っていた女性だ」

 

「そうなのか、こんな奇跡が起こるとは思いもよらなかったよ」

 

「どう言う事だ、親父」

 

「亜紀ちゃんは理樹が産まれた時からの結婚相手だ」

 

「おじ様、それは父の事で約束はなかった事になったと思っています」

 

「違うんだ、亜紀ちゃん、あいつは裏切ってなんかいないんだよ」

 

「えっ?」

 

「おい、二人で勝手に話を進めるなよ」

 

俺は何が何だか理解出来なかった。

 

「亜紀ちゃんは理樹の許嫁だ」

 

俺は驚きを隠せなかった。

 

「亜紀、知っていたのか」

 

「理樹さんが東條財閥の御曹司と知ってその時わかりました」

 

「なんて俺に婚約者がいるとわかった時、俺の許嫁だって言ってくれればよかったのに」

 

「ですからもうその約束はなかった事だと思っていたんです」

 

「どう言うことだ、親父、亜紀は今でも俺の許嫁なんだよな」

 

「ああ、亜紀ちゃんが誤解しているだけだ」

亜紀は理解出来ないと言った様子の表情を見せた。

 

「亜紀ちゃんのお父さんはわしを裏切ってなんかいなかったんだ」

 

「そうなんですか」

 

「ああ、あいつは確かに良からぬ奴らに企業秘密を流してしまったが、それは亜紀ちゃんを助ける為に仕方なかったんだよ」

 

「えっ?」

 

「わしは全てを水に流してこれからも助けてくれと頼んだんだが、あいつは自分に責任があると悪者になったんだ」

 

「そうだったんですか、私は父からおじ様を裏切ってしまったと聞いていましたから、おじ様にはもう会えないと距離を置かせて頂きました、ですから理樹さんが東條財閥の御曹司と聞かされた時、側にいてはいけないと身を引く覚悟をしたんです」

 

「亜紀、俺たちは巡り会う運命だったんだな、ニューヨークで巡り会ったのも、惹かれ合い、愛しあったのも、そうなる運命だったってことだな」

 

「私は理樹さんの側にいてもいいんでしょうか」

「当たり前だよ、な、親父」

 

「そうだな、亜紀ちゃんは理樹の許嫁なんだからな」

 

私は涙が溢れて止まらなかった。

 

「亜紀、俺のマンションに一緒に帰ろう」

 

これから理樹さんと人生を歩んでいけると疑いもしなかった瞬間だった。

 

それなのにどうして?

 

二人で理樹さんのマンションに戻った。

 

「健のハウスキーパーは契約解除するぞ」

 

「はい」

 

俺は健に連絡を取った。

 

「亜紀が見つかった」

 

「そうか、よかった、どこにいたんだ」

 

「親父のところだ」

 

「えっ?親父さんのところ?」

 

「詳しいことは会ってから話す、亜紀はたった今から俺のマンションに住むから、健とのハウスキーパーの契約は解除するからな」

 

電話口で健は黙ったままだった。

 

いきなり反論してくると覚悟していたから拍子抜けしてしまった。

 

「わかった、亜紀がそう言ったのか」

 

「いや、そうじゃない、亜紀は親父が決めていた俺の許嫁だったんだ、だから俺は亜紀と結婚する」

 

「そうか、わかった」

 

俺は健と亜紀に何かあったと推察した。

 

亜紀の意にそぐわない事があったと言っていたからだ。

 

そんなある日、思いもよらぬ出来事が起きたのである。

俺の婚約者だった取引先のお嬢さんが俺のマンションにやって来た。

 

「理樹さん、何故婚約破棄になったのでしょうか、理由を聞かせてください」

 

「親父さんにも言ったんだが、俺は別に結婚したい女性がいる、だからあんたとは結婚出来ないんだ」

 

「はじめは婚約のお話を受けて頂いたと聞いています、それなのに納得いきません」

 

俺は深々と頭を下げた。

 

「本当に申し訳ない、許してくれ」

 

「わかりました、今日はこれで失礼します、でも私は諦めませんから」

 

取引先のお嬢さんは俺のマンションを後にした。

 

別の部屋で、俺と取引先のお嬢さんの話を一部始終聞いていた亜紀は、何も言わずに食事の支度を始めた。

俺は亜紀の背中から抱きしめた。

 

「理樹さん、どうなさったのですか」

 

「俺は絶対に亜紀と結婚するからな、安心して俺に着いて来てくれ」

 

「はい、信じています」

 

「亜紀」

 

俺達はお互いの唇を求めた。

 

そんなある日、健が俺のマンションを訪ねて来た。

 

前もって俺は健から聞いていた。

「亜紀に謝りたいんだ、僕は亜紀にキスをした」

 

「お前な、亜紀の気持ち考えなかったのか」

 

「なんか、どうする事も出来なくて理性を失った、すまない」

 

「亜紀が許しても俺はお前を許さない」

 

健は項垂れて何も言わずに黙っていた。

 

「とにかく、亜紀に謝れ」

 

「ああ、そのつもりだ、お前のマンションに行く」

 

「わかった」

 

そして、健は俺のマンションに現れた。

 

「亜紀、健がお前に謝りたいそうだ、部屋に入れてやってもいいか」

 

「健さんが?」

 

俺はインターホン越しに健に「入れ」と部屋へ招き入れた。

 

「亜紀、申し訳なかった、許してくれ」

 

健は深々と頭を下げた。

 

「健さん、頭を上げてください、私の方こそ取り乱して、大人げない態度をしてしまって、すみませんでした」

 

「何言ってるんだ、当たり前の反応だ、僕が悪かったよ、本当にすまなかった」

 

亜紀は健に近づき「これからも良き相談相手になってくださいね、よろしくお願いします」と頭を下げた。

 

「もちろんだよ、理樹が浮気したら言ってくれ、僕がガツンと言ってやるから」

 

「おい、俺は浮気なんかしねえよ」

 

まさか亜紀に誤解されるような出来事が起こるなんてこの時は夢にも思わなかった。

 

取引先のお嬢さん、上部愛理、俺が婚約を破棄した相手は上部コーポレーションの御令嬢だ。

 

この女、お嬢さん育ちの何もわからないタイプと思いきや、中々の曲者だった。

 

自分が婚約を破棄されるなど考えられないと、敵意を剥き出しにしてきた。

 

俺にではなく、亜紀に……

 

ある日、俺の会社にお嬢さんはやってきた。

 

「理樹さん、婚約破棄は素直に受け入れます」

 

「申し訳ない、親父さんも認めてくれているからよろしく頼むよ」

 

「わかりました、でもわたくし、本当に理樹さんをお慕い申しておりましたのよ」

 

「ありがとう」

 

「ですから、思い出にわたくしとデートしてくださらないかしら、ね、お願い理樹さん」

 

俺はしばらく考えた。

この申し出を断っていつまでも付き纏われては迷惑だし、一回食事でもすれば気が済むんだろうと鷹を括っていた。

 

亜紀に余計な心配をさせないように報告する必要はないだろうと考えたのが、俺の大誤算だった。

 

約束通り、愛理お嬢さんと俺は食事に出かけた。

 

車でドライブして食事をした。

 

亜紀には友達と出かけるとだけ伝えておいた。

 

「亜紀、折角の休みなのに、悪いけど友達と出かけてくるよ、留守番しててくれるか」

 

「大丈夫ですよ、お気になさらないでください」

 

「今度の休みは一緒に出かけような」

 

「はい」

 

なんて俺は調子がいいんだ。

 

こんなにもすらすらと嘘がつけるとは、自分で自分が怖くなった。

 

亜紀に本当の事を伝えて、心配させるよりは、嘘でも安心させておいた方がいいだろうと、この時は疑いもしなかった。

 

俺は愛理お嬢さんと待ち合わせをして、出かけた。

今日だけ思う存分楽しませてやれば俺の役目も終わる、そう思っていたが、まさか裏目に出るとは想像もつかなかった。

「理樹さんはなんでお父様の会社を継がなかったんですか」

 

「親の力は借りたくなかったんだ、男として自分の力で会社を経営したかったんだ」

 

「素敵ですわ」

 

やべ、愛理お嬢さんの目がキラキラ輝いてる。

 

惚れさせてどうするんだよ。

 

「理樹さん、今日はお食事はどこへ連れて行ってくださるのかしら」

 

「ああ、フレンチレストランを予約しておいた」

 

「なんてスマートな振る舞いなんでしょう、何が好きとか、どこ行きたいって、優しい感じですけど、それから予約じゃ間に合わないでしょう、わたくしはグイグイ引っ張ってくださる殿方が好きなんです、理樹さんは最高ですわ」

 

ああ、またしても大失態を犯した。

 

俺は面倒だから、さっさと決めたいし、逆に好みも聞かないで予約してと嫌われるパターンを狙ったのに、まさかの愛理お嬢さんの好みだったとは……

 

この日は失敗続きになった.。

 

でもこれで終わりだ、そう思ったのは俺だけだった。

 

俺は愛理お嬢さんをうちまで送り届けた。

 

「おお、付き合うことになったのか」

そう言って屋敷の入り口に姿を見せたのは愛理お嬢さんの親父さんだった。

 

「お父様、ただ今戻りました、理樹さんにデートして頂いて、送ってくださったのよ」

 

「それはご苦労様、娘の笑顔を見るのは久しぶりだよ、ありがとうな、東條くん」

 

「あ、いえ、でもこちらに伺うのは今日で最後です、付き合うことになったのではなく、思い出に最初で最後のデートのお誘いした次第ですから」

 

「そうじゃったか、よかったな、愛理」

 

「理樹さん、嫌です、最後なんて、こんなにもわたくしの心を理樹さんでいっぱいにして、さよならなんて、わたくしは諦めませんから」

 

そう言って愛理お嬢さんは俺に近づき、キスをした。

 

咄嗟の出来事に戸惑い、どうする事も出来ず、キスを受け入れた。

 

しばらくして、我に帰り愛理お嬢さんを自分から引き離した。

 

その時は親父さんの姿はなく、屋敷に入っていったところだった。

 

「約束が違うだろ、いい加減にしてくれ」

 

俺は大人気なく、声を荒げた。