ラヴ KISS MY 書籍
第五章 同じ女を愛した悪友
間宮ちづる、決して大人しいタイプではない、ただ、ちづると別れたのは俺がアメリカに行った事を自分は捨てられたと思い込み、俺の前から姿を消したのである。
「なんか、似てるな、ちづると」
まさかこの時、俺の愛したちづるだとはしばらく気づくことが出来なかった。
俺はどうしても慎の結婚相手が気になり、日本に向かっていた。
三神のやり方も許せなかった。
海堂は俺の言う通り行動していた。
あいつには珍しく、こまめに連絡を入れてくれていた。
「お前にしては珍しいな」
「ちづるを奪い返す為なら何でもするよ」
慎のこの言葉で俺は八年前の自分を思い返していた。
あれは俺が三十歳の時の事だ。
その頃俺は親父の脛をかじって生きていた。
どうしようもない人生を送っていた。
その時出会ったのが間宮ちづるだった。
俺は親父の築き上げた資産をバックに生きていた御曹司で、数多くの女が群がっていた。
俺の周りにいる連中の中には説教する奴はいなかった。
ある日俺はコンビニに足を運んだ。
雑誌をペラペラめくり、何冊か見ていた。
そこへ声をかけてきたのがちづるだった。
「あのう、この貼り紙見えないんですか」
声のする方へ視線を移すと、ちづるがちょっと怖い顔で俺を睨んでいた。
「何?」
「だから貼り紙」
「貼り紙?」
俺はちづるの指し示した紙を見た。
《雑誌の立ち読みはご遠慮ください》
「買えばいいんだろう?買えば……」
「そうじゃないです、立ち読みの意味知らないんですか?」
なんだ、この女、俺に説教しやがって。
「充坊っちゃま、どうなさいましたか?」
「なんでもない」
俺はこのとき、ムカついていたのと同時にちづるの怒った顔が忘れられなかった。
それから俺は毎日、ちづると出会ったコンビニに足を運んだ。
しかし、一向にちづるは現れなかった。
一週間が過ぎようとしていた。
今日もダメか。
そんな時、ちづるが現れた。
「あの、この間はすまなかった」
「ああ、立ち読みした坊っちゃま」
「俺は仙道充だ」
「私は間宮ちづるです」
にっこりしたちづるの笑顔が脳裏に焼きついた。
「なあ、食事行かないか、この間の詫びと言う事で」
「奢ってくれるんですか?」
「もちろん俺の奢りだ」
「じゃあ、折角のお誘いですから、ご馳走になります」
「おお」
俺とちづるは食事に出かけた。
たわいもない話をして、時間が経つのも忘れていた。
「大変、終電が終わっちゃった」
「まだ十時過ぎたばかりだぞ」
「最寄りの路線が十時までなんです」
「お前、どんだけ田舎に住んでいるんだ?」
「どうしよう」
「俺のマンションに泊まれよ」
「えっ?そんな事出来ません」
「どうしてだよ」
「恋人でもない男性のマンションに泊まるなんて無理です」
「じゃあ、どうするんだ」
「だから困ってるんじゃないですか」
ちづるの表情から焦りの色が伺えた。
「それなら、俺はダチのところに泊まるから、ちづるは俺のマンションに泊まれよ」
「でも、それじゃあ、仙道さんに迷惑がかかります」
「大丈夫だ、俺のマンションに行くぞ」
なんて自分勝手な人なんだろう、おぼっちゃま育ちなんだから仕方ないか。
私は仙道さんのマンションに泊めて貰う事になった。
マンションに着くと凄いタワーマンションで、どんだけお金持ちなのってびっくりした。
私のボロアパートとは比べ物にならない。
出るのはため息ばかり。
「何してるんだ、早くしろ」
「あっ、はい」
あれ、私なんでこの人に命令されてるの?
「あの」
「何!」
「何でもありません」
凄い威圧感、この人の彼女って余程自分の意見はない人なんだろうな。
だって、何にも言えない。
「入れ」
「はい」
窓から眺める景色はお金を払ってもいいと思える位、絶景だ。
「わあっ、凄い」
「気に入ったか?」
「はい、とても」
「それなら、ここに住め」
私は目を丸くしてパチクリしてしまった。
「なんか、俺、変な事言ったか?」
「ここに住めって、プロポーズですか」
「そう取って貰って構わない」
なんか違う世界の住人だ、この人。
話題変えようと……
「一人でここに住んでいるんですか」
「返事は?」
「はい?なんの返事ですか」
えっ、こんなに突っ込んでくるとは、変な事言っちゃったな。
「プロポーズの返事だ」
「お断りします」
「何故だ」
何故って、どうしよう。
「結婚を約束している恋人がいるんです」
「恋人?」
「はい、だから仙道さんのプロポーズはお受け出来ないんです」
仙道さんはしばらく考えていた。
やっとわかってくれたかな?
「その男と破談になったら、俺のプロポーズ受けてくれ」
「はあ?破談になんてなりません」
「わからないだろう?」
破談も何も彼なんてこの三十年いたことがない。
「彼女、悲しみますよ」
「彼女はいない」
やっぱり、誰だって着いていけないよ。
「それと、その恋人と、そのなんだ、キスとか仲良くしたりとかするな」
「仙道さんは私の親ですか?」
「そんなわけないだろう」
「それなら私が何をしても勝手ですよね」
「それはそうだが……」