ラヴ KISS MY 書籍

 

 

第三章 連れ去られたちづる

まさか、俺の心配をよそに一人で出歩くなんて想像もつかなかった。

 

朝になり、俺は何かわからないが胸騒ぎを感じたが、仕事に出かけた。

 

仕事が終わり、ちづるの待つマンションへ向かった。

 

「ただいま、ちづる、ちづる?」

 

ちづるの姿はない、携帯も置きっぱなしだ、またコンビニでも行ったのか?

 

時間が経つにつれて、心配な気持ちが大きくなった。

 

山川に確認すると、ちづるが出かけてかれこれ二時間位経つとの事だった。

 

俺は当てもなく街に飛び出した。

 

どこへ行ったんだ、近所のコンビニを探したがちづるの姿はない。

 

「ちづる、ちづる」

 

徐々に俺の中で焦りが大きくなった。

 

まさか、連れ去られたとか……

 

捜索願いを出すか、三神の元に行ってみるか、なんの根拠もないのにいきなり訪ねるわけにもいかない。

 

しかし、この時の俺の嫌な予感は的中していた。

 

ちづるは三神亘の屋敷へ連れて行かれたのだった。

 

私はあんなに海堂さんに言われていたのに、コンビニに買い物へ出かけた。

そして帰り道、黒い車が私の真横に停まり、ドアが開いて引き摺り込まれてしまった。

 

「きゃっ、何をするんですか」

 

「早く車を出せ」

 

そう運転手に指示をしたのは、白髪の落ち着いた老人だった。

 

「手荒なことをして済まなかった、年寄りに免じて許してくれ」

 

「私をどこに連れて行くおつもりですか」

 

「わしの屋敷じゃ」

 

白髪の老人は言葉を続けた。

 

「わしは三神亘、世界的有名なデザイナーじゃ、お嬢さんは間宮ちづるさんで間違いないかな?」

 

「私は結婚して海堂ちづるです」

 

「そうか、そう言うことだったのか」

 

「あのう、私に何の御用でしょうか、携帯も置いて来て早く帰らないと海堂さんが心配します」

 

「それはすまん事をした、後で海堂氏にはわしから連絡を入れておくから安心してくれ」

 

えっ、三神さんから連絡貰ったら、海堂さん、絶対に怒るだろうな、一人でコンビニへ行った事物凄い勢いで怒られちゃう。

しかも、三神さんと一緒なんて知ったら、どうなるか、でももう遅い、きっと今頃血相変えて私を探し回っているに違いないよ、どうしよう。

 

「ちづるさん、どうかしたかな」

 

「いえ、あのう、どんな御用でしょうか」

 

「わしの息子と結婚してくださらないかな」

 

「えっ?、仰ってる意味がわかりません、私は既に結婚しています」

 

「海堂氏との結婚は愛がないのではないかな」

 

「それは……」

 

「息子さんとの結婚だって愛はないじゃないですか」

 

「息子はちづるさんを愛しておる」

 

「無理矢理身体の関係を迫って、その相手を愛しているなんて言えるんですか」

 

三神さんは頷きながら、項垂れていた。

 

「確かに息子のした事は許されることではない、しかし息子は不器用なだけなんだ」

 

「とにかく、私は人妻です、返してください」

 

「息子に謝らせてくれないか、食事の席を設けた、頼むよ」

 

三神さんは深々と頭を下げた。

 

私は頼まれると嫌と言えないタイプである。

「頭を上げてください、お気持ちはわかりました、でも息子さんとは結婚は出来ません」

 

「じゃ何故海堂氏と結婚したんだ、二人の間には愛はないだろう」

 

二人の間に愛はない、三神さんの言葉に現実を突きつけられた気がした。

 

海堂さんは危険な目に遭った私を助けてくれただけ。

 

私を好きになって結婚したわけじゃない。

 

私だって危険を回避するために仕方なく、海堂さんにお世話になっているだけ。

 

この時、改めて自分の気持ちを確かめると、ちょっと違和感を感じた。

 

私、海堂さんに惹かれ始めている?

 

海堂さんもあんなにも私を心配してくれているんだから、もしかしてちょっとは私に興味くらいは持ってくれているのではと、自分勝手な思いが脳裏を掠めた。

 

そんな自分勝手な思いを打ち砕くような言葉が三神さんの口から発せられた。

 

「失礼かと思ったが調べさせて貰った、ちづるさんは男性とのお付き合いの経験はないな」

 

間違いないが三神さんの言葉に女性として全否定されたような思いにショックを受けた。