ラヴ KISS MY 書籍
朝、目が覚めると、あゆみはもう起きていた。
「あゆみ、おはよう」
「おはようございます」
「花屋の店舗決まりそうだよ」
「本当ですか」
あゆみは満面の笑みで俺を見つめた。
「路面店探すのに苦労したよ」
「路面店ですか」
「不満か」
「そんな事ありません、最高です」
「だろ?」
俺は自信満々の表情をあゆみに向けた。
「凌もホストに戻ったらどうですか」
「えっ?」
「ヒカルくんの店で働かせて貰えばどうですか」
「ヒカルの店?」
「ホストのお仕事をしている凌が一番生き生きしていますよ」
「でも、すれ違いの生活になっちゃうよ」
俺はそれだけは避けたかった。
「大丈夫ですよ、友梨ちゃんのこと覚えていますか」
「ああ、加々美の店で一緒に働いていたお嬢さんだろ」
「そうです、私が店を辞めた後、友梨ちゃんも辞めて今、バイトを探してるってメール貰ったんです、だからまた一緒に働かないって誘ってみようかと思ってます」
「そうか、彼女なら経験あるし、任せられるから、あゆみも時間調整出来るな」
「はい、凌もヒカルくんのお店なら融通が効くでしょ」
「そうだな、でも子作りは続けるぞ、今夜もあゆみを抱きたい」
俺はあゆみを抱きしめた。
俺のキスにあゆみは可愛らしい声を上げた。
花屋の店舗は順調にオープンに向けて進んでいた。
あゆみは友梨ちゃんへバイトの話を通した。
俺はと言うと、やはり夜の世界に戻る事に躊躇していた。
あゆみと後どのくらい一緒にいられるのか、誰にもわからない。
一分一秒も無駄にしたくはなかった。
あの時、あゆみが手術を選択しなければ、今頃俺はこの世にはいなかっただろう。
術後認知機能障害により、あゆみの記憶は無くなったが、店をリニューアルさせて、ここまで大きくすることは出来なかっただろう。
何度もあゆみに巡り会えて、記憶がないにも関わらず、愛する事が出来たのも奇跡だろう。
俺はあゆみに店と子供を残したい、俺が生きていた証に。
明日、あゆみの花屋オープンを迎える前日、おれの気持ちをあゆみに伝えた。
「あゆみ、俺は夜の世界には戻らない、あゆみの店を手伝うよ」
「どうしてですか」
「一分一秒でもあゆみと一緒にいたいんだ」
あゆみは恥ずかしそうに俯いた。
「わかりました、一緒にいましょうね」
「それと、今晩も頑張るぞ」
俺とあゆみはお互いを求めあった。
そしてオープンの日を迎えた。
俺の人気は大したものだと自分でびっくりしていた。
俺のホスト時代の常連客は列を作って並んだ。
「凌、おめでとう、会える日を待っていたわよ、毎日来るわね」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
「あゆみさん、麻生さんの人気凄いですね」
「そうだね」
この時俺はあゆみの気持ちに全く気づけなかった。