ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

 

琴葉は先に来て席に座っていた。

 

「お待たせしました」

 

琴葉は俺をじっと見つめて「お話しってどんな事でしょうか」と、落ち着いた様子だった。

 

「海斗と連絡つかない理由ですが、海斗は事故で亡くなりました」

 

俺は淡々と事の事情を琴葉に伝えた。

 

琴葉は大きく深呼吸をしてから口を開いた。

 

「そう言ってくれと頼まれたのですか」

 

「えっ?」

 

「私は海斗さんに振られたんですよね」

 

「違う、ふったんじゃないよ、今でも愛してる」

 

俺は中村だと言う事をすっかり忘れていた。

 

琴葉は不思議そうな表情で俺を見つめていた。

 

しまった、俺は中村だった。

 

「あ、いや、その、海斗が今でも琴葉さんを愛しているって事」

 

「もう、結構です、お話はそれだけでしょうか」

 

えっ?、信じてないのかよ、結構ですって、どう言う事?

 

「海斗が亡くなった事、信じてくれないのか」

 

「信じられるわけないじゃないですか、別れる理由に思いついたんじゃないですか」

 

「そんなわけないだろ、俺がどんなに琴葉を愛していたか、伝わってなかったのかよ」

 

「あなたは驍なの」

 

俺は興奮して、またしても自分の言葉として話してしまった。

 

「いや、違う、その、なんて言うか……」

 

もう、俺は支離滅裂になってしまった。

 

「海斗のうちに行けば信じて貰えるから、これから行こう」

 

俺は琴葉の腕を掴み、喫茶店を出た。

 

「ちょっと、待ってください、私は行きませんから離して」

 

「どうしてだよ、俺が琴葉を、じゃなくて、海斗が琴葉さんをふったんじゃないってはっきりするだろ?」

 

「でも、それって驍が亡くなったって、はっきり現実を突きつけられるって事ですよね」

 

えっ?そうか、俺は自分のことばかり考えていた。

 

琴葉がどんな思いでいるか、全く考えなかった。

 

琴葉は急に泣き出して、俺に訴えた。

 

「驍にはどこかで生きていて欲しいんです、亡くなったらもう絶対に会えない、でもどこかで生きていてくれてたら、会えるかもしれないじゃないですか、ほんのちょっと夢見ちゃいけませんか」

 

霊体でもいいから、振られたんじゃないって思いたいと言ったのは、あれは本心じゃなかったんだ。

 

俺は琴葉の腕を離して、自分の腕から力が抜けていくのを感じた。

 

琴葉はしばらく泣いていた。

 

「ごめん、あれは本心じゃなかったんだな、なのに俺は浮かれてた」

 

「何を言ってるのかわかりません」

 

「えっ?あっ、だからその、俺、何言ってるんだろうな」

 

しどろもどろになり、狼狽えてしまった。

 

「これだけは信じてあげてくれ、海斗は琴葉さんをふったんじゃないよ」

 

「失礼します」

 

琴葉は俺にいや、中村に背を向けてこの場を後にした。

 

俺は中村の身体から離れた。

 

「僕はどうしてこんなところにいるんだ」

 

中村は自分の行動を思い出せず困惑していた。

 

「お客様、これお忘れ物です」

 

喫茶店の従業員が中村に声をかけた。

 

「えっ?僕のじゃないですが」

 

「お連れの女性の方の物だと思います、店に入ってこられた時、身につけていらっしゃいましたから」

 

「あの、僕は女性とこの店に入ったのですか」

 

従業員の人は首を傾げて、「はい」と答えた。

 

中村にしてみれば、見覚えのない事だが、渡されたスカーフを受け取らないわけには行かなかった。

 

「僕は誰と一緒だったんだ、何で喫茶店に、入ったんだ?」

 

普通に考えれば、込み入った話があるから、わざわざ喫茶店を利用したんだろうが、中村は全く心当たりがない様子である。

 

それはそうだろう、喫茶店を利用して込み入った話をしたのは俺だからな。

 

また明日にでも中村の身体を借りて、琴葉にスカーフを届ける事にした。

 

俺は何のために霊体でいるんだ。

 

琴葉に真実を伝える為か。

 

俺がこの世にいない真実は、琴葉にしてみれば認めたくない真実だ。

 

琴葉への愛情は、琴葉にしてみれば信じられない真実だ。

 

それを霊体である俺がどうやって伝えるんだ。

 

この世にいないことは、あやふやなまま、どこかで生きていると思いたいのだろう。

 

琴葉への愛情は、急に連絡が取れなくなって俺への不信感が大きくなり、振られたと思いたいんだろう。

 

まだ俺が琴葉を愛しているのなら、連絡取れないのはおかしい。

 

連絡取れないイコールこの世にいないと結びついてしまうからだ。

 

俺は琴葉に愛している事を伝えたい。

 

それなのに、それが出来ないもどかしさ。

 

残りの時間で、琴葉を守ることしか出来ないのか。

 

そんな事を考えていると、琴葉の泣いている姿が脳裏に浮かんできた。

 

俺はすぐに琴葉に元へ飛んだ。