ラヴ KISS MY 書籍

 

琴葉は言葉を続けた。

 

「朝、仕事場に驍の会社の方が来て、驍の事を伝えようとしていたの、私は振られたと思っていたから邪険にしちゃって、驍の身に大変な事が起きているの?」

 

琴葉、今の俺は何も答えてやれない。

 

「驍、私の手を握って?お願い」

 

俺は言われた通り琴葉の手を握った。

 

すると、思っても見ない事が起きた。

 

琴葉は目を閉じて、俺を感じていた。

 

「驍、暖かいよ、驍を感じるよ」

 

琴葉は目にいっぱいの涙を溢れさせて俺がいるであろう方向を見つめた。

 

マジかよ。

 

「驍、アパートに着くまで一緒にいてね」

 

琴葉はそう言うとアパートへ向かって歩き出した。

 

アパートに着くと、琴葉は自分の気持ちを俺に伝えた。

 

「ありがとうございました、私を助けてくれて、私の茶番に付き合ってくれて、どなたか存じませんが、感謝します」

 

えっ?俺だよ、琴葉。

 

俺は声を張り上げて叫んだ。

 

でも俺の声は琴葉に聞こえない、俺の姿は琴葉に見えない。

 

「私、霊感があるんです、多分この世に未練がある霊体が彷徨っているんですよね、殆どの人間はわからないと思うんですが、私は感じることは出来ます、驍と連絡取れなくなって、

同じ会社の方が店にいらした時、分かったんです、きっと別れを伝えるために、その方は頼まれたんだろうって、でももし、そうじゃなくて、驍が霊体になってしまって、私を助けてくれたのなら、嫌われたんじゃないって思えるから、だから……自分かってですよね」

 

琴葉、その通りだよ、俺が琴葉を嫌いになるわけないだろう。

 

でも、その言葉は宙を飛んで琴葉に伝わらずにシャボン玉のように消えた。

 

「でも、嬉しい反面、悲しいです、驍が霊体になったのなら、話すことも出来ない、でももし私を嫌いになったのなら、生きていてもどっちにしろ話すことは出来ないですよね、私は驍に嫌われたなら、生きていけない、でも私をまだ愛していてくれるなら、霊体でもそばにいて欲しいって、思いました」

 

琴葉、俺はどうしたらいいんだ。

 

「ごめんなさい、驍と思いたくて、あなたは優しい霊体さんですね、助けて頂いた上に私の茶番に付き合ってくださって感謝します」

 

俺は琴葉をずっと愛し続けている驍だ、どうやったらこの気持ちが伝わるんだ。

 

「ありがとうございました、それじゃおやすみなさい」

 

琴葉はそう言ってドアを閉めた。

琴葉は俺に振られたと思い込んでいる。

 

確かに霊感は他の人間より感じるんだろう。

 

しかし、まさか俺とは思っていない。

 

また、中村の身体を借りるとするか。

 

霊体が俺だと言うことは伝えられない。

 

でも、振られたんじゃないと言う事実は伝えたい。

 

俺は仮の姿の元に戻った。

 

琴葉が泣いている様子が感じられた。

 

俺は矢も盾もたまらず霊体で琴葉の元に飛んだ。

 

琴葉!

 

泣いていた琴葉は俺を感じたのだろう。

 

顔を上げて、涙を拭い、辺りを見回した。

 

「霊体さん?」

 

琴葉はキョロキョロして、俺がいる方向に視線を向けた。

 

まるで俺の姿が見えるみたいに、俺を見つめて来た。

 

「琴葉」

 

俺は思わず琴葉を抱き上げた。

 

一瞬びっくりしたようだが、でも確実に俺が、いや、正確に言えば琴葉を助けた霊体がその場に存在する事を確信したようだった。

 

「ごめんなさい、一人でいると寂しくて、涙が溢れてくるんです、あっ、もう下ろしてもらっていいですか」

 

俺は琴葉を下ろした。