ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

この日、琴葉のアパートに泊まった。

 

次の日琴葉のアパートから仕事に向かった。

 

今日はお袋に琴葉との事を話そうと考えていた。

 

仕事が終わり、家に帰った時、玄関にお袋が男性と話している姿が目に止まった。

 

なんか揉めてる様子が伺えた。

 

誰なんだ。

 

男性はお袋を抱き寄せて、何か囁いていた。

 

一瞬男性の横顔が俺の視界に入ってきた。

 

「社長!」

 

そう、その男性は俺が勤めている会社の社長だった。

 

社長が俺の親父?

 

だから、お袋のことを聞いていたのか。

 

だから、あんなに反対したのか。

 

いろんな事がパズルが解けるようにはっきりわかってきた。

 

お袋の中の女の部分を見たような気がした。

 

この味わった事がない感情はなんなのか、怒り、悲しみ、ヤキモチか。

 

すぐに処理しきれない気持ちをどうする事も出来ないでいた。

 

俺はその場を後にした。

 

行先も分からず、走り出していた。

 

車道に飛び出した俺は、車のライトに目が眩んだ。

 

次の瞬間、俺の身体は宙に浮いていた。

 

どうしたんだ、あれ?

 

俺の目に入ってきた光景は、車道に飛び出した俺の身体が横たわっていた。

 

周りの人達が騒ついている。

 

「人が跳ねられたぞ」

 

「救急車を呼べ」

 

「事故だ、警察に連絡しろ」

 

俺が車に跳ねられた。

 

えっ?どう言うことだよ。

「あなたはお亡くなりになりました」

 

俺の隣で事故の様子を宙に浮いている状態で説明している男がいた。

 

「お前は誰だ」

 

「私は霊体となった死者を黄泉の国へ連れて行く死神です」

 

「死神?」

 

「はい、あなたは残念ながら即死状態です、諦めて私と黄泉の国へ参りましょう」

 

俺が死んだ、即死状態?嘘だろ。

 

「おい、冗談だよな、俺はまだ二十三だぜ、これから琴葉と結婚して、子供が産まれて、

いっぱいやりたい事あるんだよ」

 

「皆さん、そうおっしゃいます、でも寿命は変えられません」

 

「この世に未練があるんだ、なんとかしてくれ」

 

「そうですね」

 

死神はしばらく考えて言葉を発した。

 

「三ヶ月だけ、幽体離脱した身体に乗り移り、この世で過ごす事が出来ます」

 

「本当か、俺の身体には乗り移れないのか」

 

「あなたの身体は亡くなっています、まだ亡くなっていない、しかも魂が抜けた状態の身体なら、乗り移る事が出来ます」

 

「そんな都合のいい身体があるのか」

 

「ありますよ、そのかわり三ヶ月だけです、その間にやりたい事を成し遂げてください」

 

俺は迷いもせず、死神の提案を受け入れることにした。

「後、これはお勧めしませんが、生きている魂が抜けていない身体に入り込む事が出来ます」

 

「そうか、わかった」

 

「この場合、本人の魂は寝ている状態ですので、あまり永い時間だと目覚めなくなることがありますので注意してください、では、同じ年代の男性で、あなたと関わりが無かった方、う〜ん、あ、いました」

 

「これからその身体にあなたを入れ込みます、いいですか、あくまでも身体は仮の姿です、

あなたは霊体ですので、決して正体を明かしてはいけません」

 

「わかった」

 

「三ヶ月だけです、必ず私の元にお戻りください」

 

「約束するよ」

 

俺は死神と共に仮の姿である男性の元に着いた。

 

一人暮らしのこの男性は急に幽体離脱してしまい、三ヶ月ほど彷徨って戻って来ないらしい。

 

俺はこの男の身体に入った。

 

「一つ注意があります、ある特定の人間と特別な関係を持ってはいけません、

あなたは三ヶ月後、黄泉の国へ行くことは変えられない事実です」

 

死神はそう言い残して消えた。