11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化
みくるの病室に海堂慎がやって来た。
「みくるさん、大丈夫?」
「すみません、ご心配をおかけしてしまって」
この時、海堂とはちあわせになった。
「みくるはしばらく入院することになった、契約は白紙に戻してくれ」
俺は海堂にみくるの代わりに気持ちを伝えた。
「それはみくるさんの意向か?」
「そうだ、もちろん俺との契約も更新しない、今は働くと言う状況ではないからな」
「それなら僕の知り合いの病院へ転院させる」
「今は体力的にも精神的にも動かさない方がいいんだ、後は俺がみくるの面倒を見る、今はまだ俺が雇い主だからな」
海堂は何も言い返せず病室を後にした。
「みくる、これでよかったかな」
「ありがとうございました、海堂さんにお世話になるわけには行きませんので、でも社長にもお世話になるわけ・・・」
俺はみくるの言葉を遮り自分の気持ちを伝えた。
「みくる、今月一杯は俺がみくるの雇い主だ、だから俺に責任がある、そのあとは俺の勝手な思いで行動してるんだから気にするな」
「でも、それでは申し訳ないです」
「じゃあ、その分俺に飯作ってくれよ」
「でも、婚約者の方が嫌な思いをします」
「みくる、俺は婚約者なんかいないよ」
「でも平野さんがお見合いの相手が乗り気で、話を進めるので社長とは会わないで欲しいと、あっ、その、そうじゃなくて、え〜っとその」
「そう言う事か、みくるが急に海堂慎と現れるからなんかおかしいなと感じていた、平野の企か」
みくるは俯いたまま答えられずにいた。
「みくる、今は体力回復が一番だ、何も考えずにゆっくり休め、いいな」
「ありがとうございます」
俺はみくると見つめ合い、そっと肩を抱いた。
流産したばかりのみくるにすぐ次のことを考えろなんて言えない。
そんなことまで気が回る訳がないと思った。
案の定みくるに笑顔はしばらく戻らなかった。
俺はみくるに余計なことを吹き込んだ平野を許せなかった。
平野を呼び出し俺とみくるのことには口を出さないように釘を刺した。
「俺はみくる以外の女性とは結婚しない、下手な小細工はしないでくれ」
「誄様、申し訳ありませんでした、しかし、私の立場も理解して頂けると助かります」
「親父に言われたのか」
「はい、誄様には身分に相応しい相手を選ぶ様にとの旦那様の言いつけで」
俺は自分のことを棚にあげてる親父に不満を露わにした。
「よく言うよな、自分はお袋に手を出したくせに」
「でも旦那様は恵子様と結婚しようとされていました、身を引いて旦那様の前から姿を消されたのは恵子様です」
俺は黙って平野の話に耳を傾けていた。
「旦那様は誄様が身分の違う女性と恋に落ちて、恵子さまと同じ様に誄様の前から姿を消す様なことがあったらと心配されています」
多分みくるならお袋と同じことを考えるかもしれないと思い反論出来ずにいた。
俺は親父が入院している病院へ行った。
「おお、誄、どうだ、仕事は順調か?」
「仕事は心配ない」
「そうか、じゃあ、何の様だ」
「俺はみくると結婚する」
親父は俺をじっと見て口を開いた。
「やめておけ」
「どうしてだ、俺の前から姿を消す可能性が高いからか、みくるはお袋とは違う」
「そうか?」
「どう言うことだ」
「海堂慎に会ったか」
俺はもしやと思っていた事がはっきりわかった気がした。
「海堂慎はやはりおやじの差し金か」
「誄、よく聞け、恵子はいつもわしの立場を考え行動する女だった、自分の事よりわしを優先する、自分さえ我慢すればと思う女だ、みくるさんは特に他の男の子供がお腹にいるなら尚更のこと、
お前のプロポーズは受けないだろうとわしは考えた、だから雇い主を海堂慎に頼んだのだ」
「どう言う関係だ」
「昔奴に金を貸した事がある」
「あいつならみくるさんと結婚して子供の父親になってくれると思うぞ」
「みくるは流産した」
親父は驚いた表情を見せた。
「そうなのか、それは気の毒なことだ」
「俺の元でみくるは静養する、それに伴いみくると海堂慎との契約は白紙に戻った、だからもう放って置いてくれ」
「そうか、わかったよ」
俺は親父の病室を後にした。
それからみくるはしばらくして退院することになった。
みくるはアパートを引き払い、俺のマンションへ引っ越した。
俺とみくるの関係はと言うと、相変わらず俺はみくるの雇い主だ。
正確にはみくるは会社と契約した、なのでみくるは俺を社長と呼ぶ。
俺の気持ちはいつしかみくるを妻として迎えたいと思っている。
生活を共にしているにも関わらず、みくるとはキスもしていない。
みくるは全く俺のことなど眼中にもないと俺は思っていた。
ある日俺はみくるを買い物と称してデートに誘った。
「みくる、買い物付き合ってくれるか」
「はい、どちらに行くのですか」
「アウトレットに行きたいんだが・・・」
「社長らしいですね、高級ブティックじゃなくアウトレットなんて」
そう言ってみくるは微笑んだ。
「B級品で十分だろ?安いし・・・」
「そうですね、庶民の味方です、あっ、社長は庶民ではないですけど・・・すみません」
みくるはそう言ってぺこりと頭を下げた。
「俺だって庶民だよ、この後牛丼食べに行こうぜ」
「はい、でもこれじゃデートみたいですね」
みくるは頬を染めて恥ずかしそうに俯いた。
そんなみくるをめっちゃ可愛いと思い、自然の流れでみくるの手を取り繋いだ。
この時みくるとずっと一緒だと疑うことはなかった。
まさか俺の元から去ってしまうなんて・・・