11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化
「みくる、どう言うことだ?」
「よく考えたんですけど、社長との個人契約は
無理があるのではないかと考えました」
みくるは俺と目を合わそうとしなかった。
「社長って俺との距離を置きたいって事」
みくるは黙ったまま答えようとしなかった。
「海堂慎とはどう言う関係なの?」
「どう言うって、海堂社長は私の新しい雇い主です、とても優しくして頂いてます、海堂社長のお宅にお世話になるつもりです、一緒にいると心が落ち着きます」
「新しい雇い主って、もう決めたの?俺との契約はどうなるんだ、一緒にいると心が落ち着くって好きになったって事?」
「そうかもしれません、社長との契約はお断りします」
みくるの言葉に俺は心が折れそうになった。
「わかった、契約の事は諦めるよ、でもみくるのことは諦めないから」
俺はみくるを引き寄せ抱きしめた。
「みくるの気持ちを取り戻して見せるよ」
この時みくるが俺に対して、偽りの気持ちを言っていたことなど知る由もなかった。
みくるは平野に言われて、俺の将来のために身を引いたのだ。
母の二の舞を踏んではいけないと思いながら、みくるに接してきたのに、気づいてやる事が出来なかった。
「お待たせしました」
みくるさんが戻ってきた。
彼女の頬には涙の跡が・・・
僕は彼女が気になって仕方がない。
「さあ、帰ろう」
「はい」
「みくるさん、体調は大丈夫かな」
「大丈夫です」
「来月からよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
「アパートまで送るよ」
僕はみくるさんをエスコートして車に乗せ、アパートへ向かった。
その夜、九条誄がみくるさんの元へ向かっている事など知る由はなかった。
「みくる、開けてくれ」
「社長、どうなさったのですか」
「今月いっぱいは俺との契約生きてるだろう」
みくるさんは九条誄を招き入れた。
「体調は大丈夫?」
「はい、つわりはだいぶ収まってきました」
「そうか、それはよかった」
「ご飯食べますか」
みくるさんは食事の支度をして九条誄に差し出した。
「来月から海堂慎のマンションで暮らすのか」
「そんな言い方やめてください、お仕事ですから」
「それなら、ここから通えばいいだろ、夜は俺がここに来る、みくるに会うために」
みくるさんははっきり断る事が出来ずにいた。
九条財閥の執事平野さんに九条誄とは会わないでほしいと言われていたが、九条誄に惹かれている気持ちを偽る事は出来なかった。
「社長はお見合いされた方と結婚されるんですよね」
「えっ?誰がそんな事言ったんだ」
「違うんですか」
「そんな事実はない、俺はみくると結婚したいんだ、前から伝えてあるだろう?」
その時急にみくるがお腹が痛いと言い出した。
痛みは激しさを増していく。
救急車を呼び病院へ向かった。
みくるは流産してしまったのだ。
病室で目を覚ましたみくるに事実を伝えた。
「社長、赤ちゃんは大丈夫でしたか」
「みくる、落ち着いて聞いてくれ、赤ん坊は天に召された」
「そんな・・・」
みくるは泣きじゃくり、冷静さを失っていた。
「みくる!」
「どうして、何で、私を一人にするの」
みくるは涙が止まらず、声を上げて泣いていた。
「俺が側にいるから」
俺はみくるを抱きしめた。
みくるは肩を震わせて泣いていた。
そして俺の背中に腕を回しギュッと抱きしめてくれた。
「みくる、大丈夫だよ、一人じゃないから、ずっと俺が側にいるよ」
俺は子供をあやすようにみくるをそっと抱きしめていた。
みくるが落ち着きを取り戻し始めた。
「みくる、しばらく入院だから、ゆっくりするんだ、これからのことはゆっくり考えればいいんじゃないか」
みくるは俺の言葉に頷いていた。