11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化

俺は華園誄、お袋が亡くなってからは児童養護施設で育った。

 

幼いながらお袋の苦労した姿は、脳裏から離れない。

 

親父のことははっきりとは聞いていない。

 

しかし、お袋の言葉の中に九条と言う名前は何度も出てきた。

 

多分そいつが俺の親父なんだろうとずっと思って生きてきた。

 

そんなある日、俺のアパートに一人の白髪混じりの男性が訪ねてきた。

 

「はじめまして、私は九条家の執事平野と申します、九条家当主九条権蔵様が誄様と是非お話しされたいと申しておりまして、ご迷惑を承知の上で九条家に御足労願いたいのですが、ご都合は如何でしょうか」

 

「九条?」

 

お袋が頻繁に口にしていた名前だ。

 

「話とはどんなご用件でしょうか」

 

「申し訳ございません、私の口からは申し上げられません、お迎えに行くようにと申し使って参りました」

 

「わかりました、これから伺います、支度をするので少しお待ち頂けますか?」

 

「かしこまりました」

 

俺は父親かどうか確かめたかった。

 

そしてお袋が苦労したことを伝えたかった。

 

俺は九条家に出向いた。

 

なんて広い屋敷なんだ。

 

執事に案内されて、奥の広間に通された。

 

「ただいま旦那様様を呼んで参りますので、しばらくお待ち下さい」

 

執事が部屋を後にした。

 

しばらくして部屋に一人の老人が入って来た。

 

老人と表現したのは七十は遥かに越えていると感じたからである。

 

「わしは九条権蔵、誄、お前の父親だ」

 

その老人はいきなり俺の父親と名乗った。

 

そして俺に近づき肩を抱いた。

 

「なんでお袋と結婚しなかったんですか」

 

親父はしばらく俯いて考えていた。

 

そしておもむろに口を開いた。

 

「お前がお腹に宿ったと聞いて、わしは妻との離婚を決意していた、しかし、恵子はわしの立場を考えて身を引いたんだよ」

 

そうだったんだ、俺はお袋が捨てられたとばかり思い込んでいた。

 

「わしは恵子の行方を必死に探した、お前のことも気になっていたからな」

 

俺は俯いて親父の話に耳を傾けていた。

 

「妻との間に子供は出来なかった、だからなんとしてもお前をいや、恵子を探し出したいと思っていた、わしより先にあの世に行っていたなんて・・・・」

 

親父は肩を震わせて涙を堪えていた。