11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化
俺は病室に戻り、しばらく入院を余儀なくされた。
「入院に必要な物持って来ますね」
「あの、名前なんて言うの?」
「あゆみです」
「あゆみ」
俺は視線を逸らし考え込んだ。
「ごめん、覚えてない」
「大丈夫です、気にしないでください」
しばらく沈黙の後、また俺は言葉をかけた。
「俺達何処で知り合ったの?」
「麻生さんが怪我をして、私のアパートで手当てして、私の料理を美味しいって食べてくれて・・・」
あゆみはそこまで言いかけて、涙が溢れて言葉を続ける事が出来なかった。
俺はあゆみの手を引き寄せ、頬の涙を拭った。
「すみません、急に泣かれても困りますよね」
俺はあゆみを引き寄せ、抱きしめた。
あゆみは目にいっぱいの涙を溜めて、その涙が頬を伝わった。
あゆみは思わず両手を俺の背中に回し、「凌」と囁いていた。
「ごめんなさい、私・・・」
急いで俺から離れた。
あゆみはこの時、見ず知らずの人に、泣かれて、抱きしめられて、名前囁かれて、なんて思っただろうかと戸惑っていた。
「あの・・・」
あゆみはどうしていいかわからなかった。
その時俺はあゆみの左手の薬指の指輪に気づいた。
「その指輪、俺がプレゼントしたんだよな」
「え? あっはい」
俺はじっと指輪を見つめていた。
絶対に信じてないよね、だって私が信じられないんだから。
そうだ、契約結婚だって言えば。
「あの、私達契約結婚なんです」
「契約結婚?」
「麻生さんは身の回りの世話をしてくれる人を探していて、私と契約したんです」
「へ〜そうなんだ」
「契約なんで気にしなくて大丈夫ですし、私を好きになってくれての結婚じゃないので、なんで、私と結婚したんだろうって不思議ですよね.」
「いや、そんな事ねえよ、俺があゆみに惚れて、プロポーズしたんだと思った」
俺の言葉に驚きの表情を見せた。
「だから契約解除でも大丈夫ですから」
あゆみは無理をしていると感じた。
もし彼がそうするって言ったら、私、どうすればいいの?
その瞬間俺は自分でも信じられない言葉を口にした。
「契約解除はしない」
あゆみは俺の言葉に固まった。
嘘!信じられない、彼の中に私の記憶は無いのに・・・