11月1日発売ラヴ KISS MY初書籍化
「お祖母ちゃん、凛ちゃんと今日一日一緒に遊びに行ってもいい?」
「ご迷惑じゃないですか?」
「私は大丈夫ですが・・・」
「やったあ、凛ちゃん行こう」
祐くんは飛び上がって喜んでいた。
「祐くん、パパに了解得ないと」
「じゃあ、電話しよう」
「えっ?、仕事中だからまずいんじゃないの」
祐くんはお祖母様からスマホを借りて早速電話をかけ始めた。
「はい、颯です」
「パパ?祐だよ」
「おー、お祖母ちゃんの所へ戻ったんだな」
「うん、でもこれから凛ちゃんとデートするから」
「はあ?駄目だ」
ちょっと祐くん何言ってるかな。
「祐くん、ちょっと代わって」
「お仕事中すみません、今、祐くんをお祖母様の元へ届けたんですけど、もし了解して頂けるなら祐くんを遊びに連れて行きたいんですがどうでしょうか、デートじゃないですから」
祐くんは両手を合わせて祈っていた。
「わかった、仕事終わったら凛のアパートに祐を迎えに行くからそれまで頼む」
「いえ、お祖母様の所にまた送って来ますけど」
「大丈夫だよ、俺が祐を迎えに行く、凛と会いたいんだ」
彼の言葉にドキッとした。
「わ、わかりました、じゃあ祐くんとアパートに戻ってますね」
「ああ、よろしく頼む」
そう言ってスマホは切れた。
「祐くん、パパの了解得たから、お出かけしようか」
「うん」
祐くんは目を輝かせて答えた。
「では祐くんをお預かりします、大和さんが仕事終わったら私のアパートに迎えに来てくれるそうですから、ちょっと遅くなるかもしれませんが、心配しないでください」
「ありがとうございます、祐をよろしくお願いしますね」
「じゃ、祐くん行こうか」
「お祖母ちゃん、行ってきます」
「気をつけてね」
私は祐くんとお祖母様の元を後にした。
「さて、何処行く?」
「動物園がいいな」
「動物園?いいよ」
私は祐くんと動物園に出かけた。
「凛ちゃん」
「何?」
「皆、ママと一緒なんだね」
祐くんは、繋いでいた私の手をぎゅっと握りしめた。
六歳でママが恋しいに決まってる。
パパとだって毎日一緒な訳じゃないし、お祖母様とは一緒とはいえやっぱりママに側に居て欲しいんだなと感じた。
「凛ちゃん、僕のママになって」
祐くんの言葉に私は一瞬固まった。
祐くんは私に抱きついて来た、あ〜このまま祐くんのママになれたら、どんなに幸せだろうか。
でも祐くんのママになると言う事は大和さんの奥さんになるって事だよね。
あ〜っ無理無理、こんな高いハードル乗り越えられないよ〜。
「祐くん、パパはダメって言うんじゃないかな」
祐くんはキョトンとした表情で言葉を発した。
「パパは凛ちゃんを大好きだからダメって言わないよ」
「でも、パパにすぐ他に好きな人出来るかもしれないし、私をずっと好きで居て貰える自信ないの」
「大丈夫だよ、凛ちゃんは可愛いから」
そして祐くんは私のほっぺにちゅっとしてくれた。
それから動物園内を見て周り、アパートに着いて夕飯を食べる事にした。
祐くんは疲れたのかぐっすり眠ってしまった。
今日は土曜日だからまだ明日学校は休みで、ちょっとほっとした。
しばらくしてドアのチャイムが鳴った。
大和さんが祐くんを迎えに来てくれた。
「凛、俺だ」
大和さん、声を聞いただけでドキッと心臓が跳ね上がった。
「はい、今開けます」
ドアのロックを開錠した。
「大和さん、お仕事お疲・・・」
とそこまで言いかけた途端、手を引き寄せられて抱きしめられた。
「大和さん?」
「凛、会いたかった」
その時祐くんが目を覚まして、私達の姿を見た。
「パパ」
祐くんの声を聞いて、私は慌てて彼から離れた。
「祐くん、目が覚めたの」
「うん」
「パパ、あのね、凛ちゃんの事ずっと好きだよね」
「ああ、好きだよ」
「他の人好きにならないよね」
祐くんは何を言い出すのかと思い焦りを隠す事が出来なかった。
「祐くん!」
「凛以外好きにならないよ」
「パパ、僕ね、凛ちゃんにママになって欲しいんだ」
祐くんの突然の願いに彼の反応が気になった。
「祐、その願いを叶える為には、凛にパパを好きになって貰わないと駄目だ」
えっ?私は既に彼に心を奪われていた、でも彼はその事を知らない。
「凛ちゃん、パパの事好きだよね」
二人に見つめられて、私はどう答えていいか迷っていた。
祐くんのママにはなれるかもしれないけど、大和さんの奥さんは絶対無理。
「まだ、よくわからないかな」
「パパ、もっと頑張って凛ちゃんに好きになって貰わないと駄目だよ」
「そうだな、さ、もう遅いから帰るぞ」
「凛ちゃん、また遊ぼうね、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
「凛、今日は助かったよ、じゃ、おやすみ」
彼と祐くんは町の暗闇に車を走らせて消えた。
月曜日がやって来た。
明日は彼のマンションに行く約束の日、あ〜どうしよう。
その時スマホが鳴った。
菜々美からだった。
「菜々美?仕事は?」
「今は昼休み、あまり時間無いから簡潔に報告して」
私は深呼吸をして話し始めた。
「先週食事に行きました、そして明日彼のマンションに行く事になっちゃいました」
電話口で菜々美の大きなため息が聞こえて来た。
「凛、行っちゃ駄目よ、遊ばれてそれで終わりよ」
「わかってる」
「これ以上深入りしたら戻れなくなるわよ」
「ちゃんとお断りします」
スマホは切れた。
その夜、スマホが鳴った、大和さんからだった。
「凛?遅くにごめんね、明日、十時位に凛のアパートに迎えに行くから」
彼の声にドキンと鼓動が跳ね上がった。
駄目、駄目よ、断らないと。
「明日用事が出来てしまって、行けなくなりました」
「彼とデート?」
「そ、そうです、この間連絡しないですっぽかしてしまったので、怒られてしまいました」
「そうなんだ」
「あのう、もう合わない方がいいと思うので、私の連絡先削除してください、じゃ」
私は彼の返事を聞かないうちにスマホを切った。
「凛」
スマホは切れた。
凛が言っている彼の事は嘘だとすぐに分かった。
どうして俺と距離をおこうとするんだ、二度目のキスには手応えを感じたのに・・・
近づいたと思うと離れて行く、凛は何故俺の腕の中で大人しくしていないんだ。
どうしたら、俺を好きになってくれる?
こんなにもお前が愛おしいのに・・・
「うっ、薬」
俺は慌てて薬を飲んだ。
そう、俺は末期がんに侵されている。
気づいた時にはガンが相当進行していた。
一番の気がかりは俺の息子の祐だ。
俺がこの世から消えたら、祐は一人になる。
元妻には絶対に渡したくない。
そんな時、凛と巡り会った。
そして祐に合わせてみようと思った。
祐を任せられる女はこいつしかいない、
祐が大好きになり、俺が認めた女が凛だった。
しかし俺が口説いて陥落しない女は初めてだ。
しかもまさか俺がこんなにもマジになるなんて、誰が想像しただろうか。
祐があんなにも凛に懐くなんて、祐には俺がいなくなったのちに凛を守って貰わなくちゃいけないから、凛を大好きになる気持ちがどの程度か観察していた。
予想以上の凛に対しての気持ちに、はっきり言って驚いている。
ところが肝心の凛の気持ちが俺に向いていない。
これは完全に計算ミスだ。
まさか、マジで男がいるのか?
良からぬ想像が俺の頭を支配する。
こんな俺が凛を口説いて、幸せに出来ない事はわかっている、だが他の男に渡したくない気持ちが想像以上に膨れ上がっていた。
もうこの気持ちを止める事は出来ない。