桐生 柊は自分の気持ちを言葉に出来ない。
亜実を愛しているのに、「愛している」の一言が言えない。
それは5年前の恋愛がトラウマになっていた。
柊が22歳の時、恋に落ちた相手が寿 愛佳18歳である。
柊は会社社長の就任を余儀なくされていた。
当時社長であった母親が、病気を患い、社長の座を退いたからである。
柊は付き合っていた愛佳と結婚がしたかった。
「愛佳、俺達結婚しよう」
「どうしたの、急に」
「俺は社長に就任する事になった」
「えっ、社長?」
愛佳は驚きを隠せなかった。
「これから忙しくなると、中々会えない、そんなの嫌だ」
柊の気持ちを理解出来ない訳ではない。
しかし、愛佳はまだ18歳の未成年である。
まだまだ若いうちにやりたい事は山ほどある。
柊の事は好きだが、結婚は考えられなかった。
「愛佳、愛している、ずっと一緒に居たい、愛佳と離れたくない」
柊は愛佳を抱きしめた。
この時、柊は自分の気持ちを言葉にする事に疑う余地はなかった。