登坂side)
自分の店に戻る階段を上がると
雨音は強くなり、雷の音がする。
年上の女には、もう懲り懲りのはずなのに・・・
なのに、梨沙さんを見てたら
ずっと傍にいたい、そんな思いに駆られる。
それを振り払うように
ガラスのドアミラーカバーを磨いた。
雨の日は掃除をするに限る。
「社長、雨酷くなるらしいですよ。
避難勧告出るってネットで騒いでます!
お店、どうしますか?」
こんな時、必ず声をかけてくるのは
店一のしっかり者の楓。
「マジ?雨、これ以上降ったら
お前ら、帰れないな。。
今日は予約ねえし、
閉めるか?」
(てか、梨沙さんとの約束・・・
今日は、無理かな・・・)
「わかりました。ホームページ臨時休業でいいですね?
じゃ、閉める準備します。」
楓は颯爽と事務所へ戻って行く。
エントランスの照明が消えた。
オレは、花屋へ急いで降りた。
梨沙さんに次の約束を取り付けるために。
梨沙side)
雨が酷くなるということで、片寄くんを先に帰し
空調と照明の確認をしていると、
携帯の着信かバイブ音が聞こえた。
(ヒカルかもしれない)
ロッカーにバッグを取りに行き
急いで携帯を開く。
岩田さん・・・
「もしもし、お疲れ様です。」
「梨沙さん、東京雨強いって今ニュースでやってて
どう?お店閉めた?」
「今、閉めたところです。
もう、帰ります。」
「あ、良かった。
それと、ヒカルくんの事で
話あるんだけど、自宅に着いたら連絡欲しいんだけど。」
「ヒカルに何かあったんですか?」
「そうじゃなくて、
橘さんとの事・・・
とにかく、家着いたら連絡して」
「気になります、今、言ってください」
「あのね、橘さん・・・
梨沙さんと復縁したいって。
で、ヒカルくんを引き取りたいって。」
「橘さんの奥さんは??」
「別れる気でいるらしいよ。」
「岩田さん、ごめんなさい、
ちょっと今は返事出来ない・・・
考えさせて・・・」
「もちろん、そうだよね。
ゆっくりでいいよ。
ヒカルくんとも話したいだろうし
ごめんね、こんな事・・・」
♪カラン
ドアが開き、登坂さんが入ってきた。
「じゃ、すみません。
また」
私は、急いで携帯を切った。
「梨沙さん、雨強くなったから
今日飲むのやめて、今度にしよ?」
「登坂さん、私、今夜
お酒、飲みたい」
溢れ出そうな心の内を誰かに聞いてもらいたい・・・
私は、そんな気分だった。