2023年12月9日
浜口陽三展が人形町のミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションで催されていたので行ってきました。
ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションはもっぱら浜口陽三の作品を収蔵展示する美術館で、1998年にヤマサ醤油株式会社が開設しました。
浜口陽三はヤマサ醬油の十代目・濱口儀兵衛の三男として1909年に生まれ、戦後カラーメゾチンとと云う独特の銅版画の技法を開拓し、国際的評価を受けています。
現に彼の作品はボストン美術館、ニューヨーク近代美術館はじめ多くの欧米の美術館のコレクションにもなっています。
メゾチントは『ベルソー』という鑿に似た形の湾曲した鋸歯状の下端で、銅の表面に無数の穴やバリを作り、その後ささくれだった表面を削ったり磨いたりして、図柄を描き出す銅版画の一種です。
浜口陽三のメゾチントの作品
ジプシー
は例外的な作品ですが、黒いさくらんぼ
魚とレモン
トリコット
殆どが静物画となっています。
浜口陽三がユニークなのは彼が多色のカラーメゾチントを開拓したからなのです。
ぶどう
黒いさくらんぼ
黒い背景のぶどう
蝶
さくらんぼと青い鉢
ザクロ
西瓜
黒い空間に浮かびあがるようなさくらんぼ、レモン、ブドウやざくろは抽象画のような感じでいて、しかも艶っぽくて、エロチシズムの香りを漂わせつつ、日常的な素材で非日常の空間を描き出しています。
若い頃はこんな油絵を描いていました。
後のカラーメゾチントの世界を彷彿させる油絵も描いていました。
浜口陽三の奥さんは版画家の南桂子さんであることはよく知られています。
南桂子は再婚ですね。
その作品は物語性のあるメルヘンチックなものとなっています。
冬
公園
羊飼いの少女
花売り娘
落ち葉
魚と落ち葉
子供と花束と犬
シャトーと赤い実
青い木
林と少女
紫色のシャトー
南桂子の作品は詩人にインスピレーションを催させる様です。
谷川俊太郎の『そして日々が』-南桂子さんへー の一部
舟はたしかに
未知の岬をめざしている
魚はたしかに
産卵の日を待っている
鳥はたしかに
散弾におびえている
少女はたしかに
運命を知っている
一枚の絵のなかには
無数の油断がある
静かな
目に見えぬ油断が
そして日々は過ぎてゆく
そして日々が
この詩を読んで私が思い出したのがこの絵です。
『赤い魚』と言うこの版画ではないかと。
南桂子は童話を書きながら、油絵を森芳雄の教えてもらっているとき、浜口陽三と知り合ったと言われています。そして二人はパリに渡り銅版画を学び始めています。
『二羽の鳥と落葉』や
『平和の木』
を見ると二羽の鳥がそれぞれ違う方向を向いていながら、微妙な位置関係を保っています。
二人に作品の方向性の違いと程良い親近さをと言うか、むしろ強い関係性を象徴しているように思えるのですが。
精緻で職人的で抽象画的な浜口陽三と物語風の象徴的でメルヘンチックな南桂子の作品は異なっているようで何故か近いものがあるように感じるのは私だけでしょうか。
南桂子のパリでの日記を見ていると、与謝野晶子と鉄幹夫妻のパリでの様子を思い出してしまいます。
好きな伴侶に巡り合えた歓びにあふれています。
以前来たときは醬油アイスクリームがカフェスペースで味わえましたが、現在は扱っていないようでした。少し残念な気持ちです。
すぐそばのうどん屋さんで昼食にしました。
メニュー
肉うどんにかき揚げ天とちくわの磯部揚げをトッピングして750円でした。