2024年2月1日

千葉県立中央博物館から送られてきた生命の賑わい調査団会報の中に詩人・大島健夫さんのニホンイシガメの案内文があったので、それの紹介です。

 

日本国内の淡水に生息する主要なカメのうち、カミツキガメはもちろん外来種、アカミミガメも外来種です。

クサガメも近年の研究で外来種の可能性が高いとされています。

と言うことは、かつては日本の水辺にはニホンイシガメとニホンスッポンしか棲んでいなかったことになります。

ニホンイシガメ

 

ところが文献を紐解いていくと、「緑毛亀」あるいは「蓑亀」と言うカメが散見されます。

甲羅は緑色の毛がふさふさと生えているカメ、と言うことです。

平安時代初期の「続日本記」や鎌倉時代の『古今著聞集』には、そのようなカメは縁起が良いとされており、朝廷に献上されたりした旨の記述が残されています。

昔はそんなカメがいて、現在は絶滅してしまったのでしょうか。

それとも想像上の生き物なのでしょうか。

実はそのどちらとも違います。

この緑色の毛は、マリモなどと近縁種のバシクラディア属の緑藻類の一種であり、淡水生のカメの甲羅に付着、生育することもあるのです。

緑毛亀を瑞兆であるとする思想は古代に中国から輸入され、奈良時代の日本には既に定着していました。

ニホンスッポンの甲羅には生えないので、文献に出てくる緑毛亀はニホンイシガメ出会ったと思われます。

幕末になってもこの思想は生きていました。

尊王の志士として知られ、吉田松陰にも大きな影響を与えた高山彦九郎は、ある日知人から「琵琶湖で捕まった緑毛亀をもらったよ」と言う手紙を受け取ります。

彦九郎はこのカメを御所に持参して時の光格天皇に献上すると、光格天皇は大いに喜び、

はかりなき 千尋のふちにすむ亀は げに萬代の齢なるらし

と言う歌を詠みました。

計り知れない千尋の淵に住むカメは、まことに萬年も生きてきたものだろう、と言うのです。

この一件で、彦九郎は天皇に謁見が許され、カメは仙洞御所の池に放たれたといいます。

しかし、記録によるとこのカメの長さは二寸七分、つまり8cmちょっとしかなかったことですから、万年も生きたものでなく、・・・・どうやら本当は、まだ若いカメだったのです。

 

ニホンイシガメの寿命は30年くらいと言われています。

クサガメは60年以上、そのほかアメリカハコガメは100年以上、ワニガメは150年以上と言われています。ギネス記録に載っているアルダブラゾウガメは190歳を迎え記録を更新中です。