2023年8月13日
2022年2月23日かつしかシンフォニーヒルズ・モーツアルトホールで録画された小川典子 「ドビュッシーを奏でる」をNHKBSプレミアムで視聴しました。
小川典子さんは日本とイギリスを拠点に活躍しているピアニストです。
小さい頃からバッハ、ベートーヴェン、ショパン、リストなどを勉強していましたが、小学生の時アンドレ・ワッツが弾くドビュッシーの映像第1集を聴いて、自分の知っている今まで学んできた音楽とは異なった音に驚き、美しいと感動したそうです。
その時初めてドビュッシーを意識し、自分でも弾いてみたいと思ったそうです。
こんなことがあって、ドビュッシーの作品が小川さんのレパートリーの中で重要な位置を持つようになりました。
実は私も初めて買ったLP3枚のうち、1枚がドビュッシーの前奏曲集第1巻でした。
ギーゼキングのピアノでとても気に入り、その後第2巻も購入して聴きましたが、私は第1巻の方を何度も聞き本当にドビュッシー好きになりました。
20世紀初頭に印象主義という流派が現れます。
雰囲気・気分・自然などのイメージを音で表すという考え方です。
ドビュッシーやラベルはまさに印象主義の代表作曲家なのです。
この動きに対抗するように現れたのが表現主義です。
外界から受けた印象でなく、人間の持つ感情などの内面に焦点を当てていく、無調派そして十二音技法などがシェーンベルク、アルバン・ベルク、ウェーベルンによって進められていきました。
そうゆう意味でドビュッシーは20世紀音楽史の中で一方の極にいる作曲家なのです。
小川典子さんの今日の演目はオールドビュッシーです。
第1曲目の「月の光」は有名な曲なので多分多くの人が知っていると思います。
小川さんのピアノは無理なのでミシェル・ベロフのピアノで。
直接月を見ているのでなく、水面に映った月の映像をイメージして聴き方がピッタリかなと思います。
水面に揺れる月が刻々と変化していく、その一刻一刻を表す音列の微妙な流れとテンポに意識を集中すると、小川さんの弾いている息遣いさえ感じてきました。
しっくりと心に迫り何度聞いても飽きない曲ですね。
ジャン・アントワーヌ・ヴァトー作<シテール島への巡礼>
シテール島はエーゲ海にあるヴィーナスの島とも呼ばれます。
ドビュッシーはこの絵を見て「喜びの島」を作曲したと言われています。
しかし実際はもっと生々しいのです。
1904年7月イギリス海峡にあるジャージー島にドビュッシーは不倫旅行してこの島で「喜びの島」を作曲しました。
当時ドビュッシーは妻ロザリーとの仲は冷え切っていました。
そんなドビュッシーは銀行家の妻であるエンマと不倫関係に陥っていたのです。
マウリツィオ・ポリーニのピアノで。
「きらめくような豊かな色彩の細やかな音の連なりは幻想的な愛の喜びを描き出している」と評している人もいますが、ちょっぴり不倫の背徳感を感じることができるでしょうか。
太陽のもとでキラキラ輝く二人は歓びにあふれていた感じ、小川さんの演奏から聞き取れます。
不倫旅行ではないのですが、与謝野晶子と鉄幹のフランスでの歓び
ああ皐月 仏蘭西の野は 火の色す 君も雛罌粟 われも雛罌粟
を思い出してしまいます。
二人が有頂天になっている様子似ていると思いません。
歓びの島への不倫旅行の後、ドビュッシーと不倫相手のエンマは、お互いに離婚が成立し2人はめでたく結婚しています。
しかし世間の風当たりは強く実家からは資金援助も断たれ、生活は苦しかったようです。
そんな二人の間に生まれたのが娘のクロード=エマ通称シュシュです。
ドビュッシーはシュシュを溺愛したと言われており、「子供の領分」は愛娘のために書かれたピアノ曲集です。
大分横道のそれました。
次は小川さんにとって思い出の「映像第一集」の<水の反映>です。
<水の反映>はラベルの<水の戯れ>に刺激されて作曲されたことはよく知られています。
ラベルの<水の戯れ>
アルゲリッチのピアノで。
ドビュッシー<水の反映>
シャンソン・フランソワのピアノで、第1曲目です。
ラベルもドビュッシーもさすが印象派の巨匠ですね。
皆さんはどちらがお好みですか。
ラベルは光の乱反射で煌めいている様子。
ドビュッシーは生成消滅する波のトランジェントの感じを、ペダルを駆使して表現する様子。
私はラベルのキラキラの色彩感より、ドビュッシーの残響というか音の生滅の推移感の方が好みです。
今日のメインは前奏曲集第2巻です。
ドビュッシーの前奏曲集はバッハの「平均律クラヴィーア曲集」やショパンの「24の前奏曲」などと同様に24曲から成っていて、第1巻が12曲、第2巻も12曲割り当ています。
第1巻の方がより色彩的で印象派風の作品ですが、第2巻は弱音が多くて華やかさに欠けると感じるのか、演奏会で取り上げることは少ないです。
私も第1巻の方が断然好きです。
ギーゼキングのピアノで。懐かしいですね。
ギーゼキングは新即物主義と言われる人です。
小川典子さんの演奏では最後の「花火」はやはりドビュッシーらしいキラキラした感じが出ていて、演奏に引き込まれました。