名城とは、すぐれた城、りっぱな城、名高い城です。

 日本における城は、古代の環濠集落から石垣と天守を持つ近世の城まで多様なものが含まれます。

 幕末の台場や砲台も、城に含めることがあります。

 ”列島縦断「幻の名城」を訪ねて ”(2017年4月 集英社刊 山名 美和子著)を読みました。

 全国の城を旅して、歴史の中で朽ち果て今は遺構だけを残すかつての名城の中から48の城を紹介しています。

 城の造営は、堀や土塁を築く普請と、門や塀を造る作事からなります。

 屋敷や櫓・天守も作事に含まれます。

 中世の城では、戦闘員である武士がおもに駐在し、その武士たちを抱える主君の武家や豪族は、城のある山とは別の場所に館を構えて居住していました。

 戦国時代には、主君も城内に居住するスタイルが現れ、おもな家臣たちも城内に屋敷を与えられ、その家族や日常の世話をする女性も居住しました。

 戦国末期から近世の城郭では、外郭を築き、城下町も取り込む城も現れました。

 江戸時代の1615年に一国一城令が発布されるまでは、城は各地に多数存在し、砦のような小さなものも含めると数万城あったといわれています。

 本書が扱うのは、何層もの天守閣がそびえる国宝の名城ではなく、見事な構造を備えながらも朽ちていき、今は遺構を残すのみの場所です。

 山名美和子さんは1944年東京都生まれ、早稲田大学第一文学部卒業後、東京・埼玉の公立学校教員を経て作家になり、今日まで主に歴史ものを執筆しています。

 古代から近世まで、長い歴史を歩んで残る城跡は4万とも5万とも言われています。

 近ごろは城郭ファンの幅が広がり、建物跡もなく、石垣さえない戦国期の城跡にも関心が持たれるようになりました。

 敗将に心を寄せ、ゆかりの城を訪ねる人もふえたといいます。

 天守や櫓のそびえる近世の城も、もちろん人気が高いです。

 城址めぐりのタイムトラベルは、地図を片手の第一歩から始まります。

 道を折れ、ふいに石垣や土塁示姿をあらわすと、出合えたよろこびが込みあげます。

 まずは虎口=こぐちと土塁があれば城は成り立ちます。

 堀は、石垣は、土橋はと、過去への旅に夢中になります。

 城は命や財産を守ろうという目的をもって設けられた構造物ですが、それだけではありません。

 動乱をかいくぐった城跡には、たくさんの栄光や激闘のドラマが刻まれています。

 城址に残る質朴な美、あるいは豪壮なたたずまいに魅了されながらも、哀愁が込みあげてきます。

 武将たちの足音が響いた曲輪、勝どきをあげ勝利の美酒に酔った館、無念を噛みしめて散った砦、女たちがたたずんだ望楼、敵に負けじと若武者が矢をつがえた城門などなど。

 城をめぐれば、生と死を懸けた人びとのいとなみが、熱く追ってきます。

 城は攻防の砦です。

 戦国動乱の時代、城を舞台に幾多の戦いがくりひろげられ、勝者と敗者を生み、次第に姿を変えていきました。

 やがて数百年の歳月が過ぎ、たくさんのドラマを秘めたまま、草木に埋もれ、土に覆われ、開発の波にさらされ、城址は朽ち果てていきました。

 しかし、たとえ戦の炎で焼き尽くされたとしても、城跡にたたずめば、そこに存在した城郭がありありと浮かびあがります。

 古城をたどって戦国武将や中世豪族の軌跡を追い、埋もれた秘話を探訪し、悠久の時の流れに刻まれた歴史の断片に迫っていきたい。

 城をイメージするとき、堀や石垣があり、御殿が莞を連ね、大守がそびえる、そんな姿を描くのがふつうです。

 しかし、中世から江戸時代までに築かれた城の多くは、いまはありません。

 戦乱や災害で失われ、江戸初期の一国一城令では、全国で3000あった城が170に激減しました。

 さらに、明治を迎え不要になった城は、廃城令によって破却され、あるいは売却されて姿を消し、吹き渡る風に石組や堀跡をさらすのみとなりました。

 ですが、建物はなくても、爛漫の杏、緑陰や紅葉、雪景色と、城址は季節によりさまざまな情景を映しだし、栄華を誇った威容を偲ばせます。

 苔むした石垣、草木に覆われた土塁の高まり、樹木に埋もれた堀跡、屹立するし岩の城門跡、これらに出合うと、まるで発見者になったような興奮を覚えます。

 国宝や世界遺産の城、御殿や櫓がみごとに再興された城への旅もいい。

 ですが、戦や風雨にさらされながらも遺構を残す城跡は、かぎりない夢想をかきたてます。

 いまは幻と潰えた城を、北は北海道から南は沖縄へと訪ね、そこに生き、戦い、生を終えた人びとの息吹きを探して歩いたとのことです。

 遺構の数々は、生と死を懸けた戦国の英知や勇気、そして悲哀さえも多弁に語りかけ、現代に生きる者を魅了し、圧倒し、やがて郷愁に誘いこみます。

 今日見られる天守の最初のものは、織田信長が建造した安土城の天守といわれています。

 最初に、2年で幻となった天下人・信長の巨大城址の安土城を紹介しています。

 この城は炎上のあと長い眠りについた城跡であり、かつては信長がこの豪華華麗な天守に起居しました。

 続く名城として、琵琶湖の汀に残る明智の夢の跡の近江・坂本城を紹介しています。

 以下、ほかの46の名城が紹介されています。

「幻の名城」地図
第一章 これぞ幻の名城i石垣と土塁が語る戦いと栄華の址
[西目本編]安土城/近江 坂本城/小谷城/一乗谷館/信貴山城/大和郡山城/竹田城
[東日本編]春日山城/躑躅ヶ崎館/新府城/興国寺城/石垣山城/小田原城/金山城/箕輪城/高遠城/九戸城
第二章 大東京で探す「幻の名城」
 江戸城/武蔵国から東京への大変貌のなかで/平塚城(豊島城)/石神井城/練馬城/渋谷城と金王八幡宮/世田谷城と豪徳寺/奥沢城と九品仏浄真寺/深大寺城と深大寺/滝山城/八王子城
第三章 櫓や石垣、堀の向こうに在りし日の雄姿が浮かぶ
 金沢城/上田城/福岡城/津和野城/女城主 井伊直虎ゆかりの城/井伊谷城/松岡城
第四章 再建、再興された天守や館に往時を偲ぶ
 五稜郭/会津若松城/松前城/伏見城/忍城
第五章 古城の風格をいまに伝える名城
 弘前城/丸岡城/備中松山城
第六章 北の砦チャシ、南の城グスクの歴史
 アイヌにとっての砦チャシ/シベチャリチャシ/ヲンネモトチャシ/首里城/今帰仁城/中城城/座喜味城/勝連城
巻末資料 日本の「城」とは何か

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