グローバリゼーションを否定するかのような動きが、先進国の国民のなかで急速に広がっています。
利潤をもたらしてくれるフロンティアを求めるために地球の隅々にまでグローバリゼーションを加速させると、地球な有限では、いつか臨界点に到達し、膨張は収縮に反転します。
” 閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済”(2017年5月 集英社刊 水野 和夫著)を読みました。
資本主義の終焉によって経済成長の時代は終わり、これから生き残るのは閉じた帝国であるといいます。
経済成長を追求すると企業は巨大な損失を被り国家は秩序を失う時代になり、これまでの世界経済の常識が逆転しています。
これは、保護主義的な政策を打ち出している米トランプ大統領の登場や、欧州連合からイギリスが離脱を決めた動きにも如実に表れています。
21世紀は大転換期であり、米英・欧州・中露・日本の経済はどう変わるのでしょうか。
水野和夫さんは、1953年生まれ、1977年早稲田大学政治経済学部卒業、1980年早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了、国際證券、三菱証券、三菱UFJ証券に勤務しました。
その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に入社し、金融市場調査部長、執行役員、理事・チーフエコノミストを経験しました。
2008年東洋英和女学院大学院非常勤講師、2009年埼玉大学大学院客員教授、2012年12月経済学博士(埼玉大学)を経て、2013年から日本大学国際関係学部教授を務めています。
歴史、哲学、宗教、社会学、文学など様々な本に歴史の危機を読み解く手がかりを求め、現代の長い21世紀が長い16世紀以来の大転換の時代であることに思い至ったといいます。
長い16世紀に起きた最大の転換とは、古代・中世と続いた閉じた宇宙という世界観が、無限空間という世界観にとって代わられたことでした。
ローマ帝国以来の陸の時代から、オランダ、イギリス、アメリカが覇権を継承していく海の時代への転換でもありました。
そして、人類を救済するために蒐集が行われたのですが、21世紀の現在、資本を蒐集すればするほど、能力差では説明ができないほどに格差が広がっています。
その結果、アメリカで白人の自殺率が高まったり、ヨーロッパでテロが横行したりするなど、社会秩序が乱れてきています。
もはやフロンティアがなくなった長い21世紀は、時代の歯車が逆回転しています。
つまり、世界史は再び、閉じてゆくプロセスに入ると同時に、陸の時代へと舵を切ろうとしています。
事実、アメリカの衰退とともに、EU、中国、ロシアといったかつての陸の帝国が存在感を強めています。
長い目で見れば、国民主権国家と資本主義からなる近代システムも完璧ではなく、近代システムを解体するときもいつかはやってきます。
その先に展望されるポスト近代システムとして、閉じた帝国と定常経済圏のふたつがあります。
長い21世紀という混乱期を経て、世界は複数の閉じた帝が分立し、その帝国の中でいくつかの定常経済圏が成立します。
この理想に近づくことができた帝国こそが、うまく生き延びていくのであろうということです。
閉じた帝国という中世回帰の動きは始まったばかりで、建前上は主権国家システムが継続しています。
近代を維持・強化しようと考える勢力と、ポスト近代への移行を目指す動きとのせめぎあいが起きているのです。
その機能不全が、歴史における危機となってあらわれているのが現在の状況です。
歴史の危機を前半と後半に分ければ、前半は既存システムが優勢で、後半は新しいシステムを目指す勢いが徐々に増してくるというのが、これまでのパターンです。
資源争奪戦争が起こる前に、各国が自国の生存にのみ興味を払う主権国家システムを捨て、閉じた帝国が定常経済を築き、帝国内の秩序に責任をもつようにしなくてはなりません。
その新しい時代に向けて先頭を走る国や地域は、どこでしょうか。
2008年から鈴木忠志さんが演出する演劇を富山県で毎年観続け、そこから大きな衝撃を受けたといいます。
日本の国には灯がついているかい、と主人公の娘がたずねると、父は、どの国にだって灯なんかあるはずがないじゃないかと答えます。
娘に、アメリカはどうだろとたずねられ、父は、もちろん消えたよ、おまえ、今日はどうかしているぞと答えます。
そしてしばらくして外で騒ぎがあり、それを見に行った娘が、日本が、父ちゃん、日本が、お亡くなりにと報告します。
初演された1991年という年は、生産力競争の破綻がソビエト連邦解体と日本のバブル崩壊で明らかになった年です。
この中で、父が、日本にもアメリカにも灯なんかついていない、というのは、資本主義の終焉と結びつくように思ったそうです。
これからも、アメリカとともに成長教の茶番劇を演じ続けるのでしょうか、ポスト近代システムの実験へと一歩を踏み出すのでしょうか。
世界的ゼロ成長が完成しつつある今、日本は危機の本質に立ち戻って考えなくてはなりません。
はじめに-「閉じていく」時代のために/第1章 「国民国家」では乗り越えられない「歴史の危機」/第2章 例外状況の日常化と近代の逆説/第3章 生き残るのは「閉じた帝国」/第4章 ゼロ金利国・日独の分岐点と中国の帝国化/第5章 「無限空間」の消滅がもたらす「新中世」/第6章 日本の決断―近代システムとゆっくり手を切るために/おわりに-茶番劇を終わらせろ