クラシック音楽は16世紀ルネサンス期にまで遡れる程の歴史を持つことから、オーケストラはさぞ古いものだと感じてしまう人は多いようです。

 しかし、現在我々がイメージするオーケストラの姿は、それほど昔に形成されたものではありません。

 現代のオーケストラのスタイルは19世紀に成立したもので、アメリカのオーケストラはその形成過程で重要な役割を果たしました。

 ”オーケストラ大国アメリカ”(2011年4月 集英社刊 山田 真一著)を読みました。

 今日まで続くアメリカで最も古いオーケストラは、ニューヨーク・フイルハーモニックです。

 クラシック音楽の伝統のない国だと思われているアメリカが、実は真のオーケストラ大国だということです。

 設立は1842年、これはウィーン・フイルハーモニー管弦楽団と同じ年です。

 山田真一さんは1963年東京生まれ、シカゴ大学大学院博士課程を修了し、昭和女子大学非常勤講師を務め、音楽専門誌や新聞などに評論等を執筆している芸術文化研究者、音楽評論家です。

 今日ではもう聴くことができない演奏団体やオーケストラは、19世紀前半のアメリカに幾つもありました。

 フランス王家オルレアンや、ジャンヌ・ダルクでも有名な都市にちなむニューオリンズは、フランスの豊かな文化の影響を受け、アメリカ合衆国に併合されてからも、19世紀初頭、音楽文化ではアメリカで最も活動的な地域でした。

 そのニューオリンズには、ニューヨーク・フィルよりも早く、1824年にニューオリンズ交響楽団協会が設立されました。

 ニューオリンズからは、アメリカ生まれながらヨーロッパ渡航後、ショパンに劣らない人気を得たピアニストで作曲家のルイ・モロー・ゴッチョークのようなアーティストも出ました。

 ニューオリンズからミシシッピー川を上って、アメリカ北東部を結ぶ地点にあるセントルイスには、1838年セントルイス・フイルハーモニック協会が設立されてます。

 また、オーケストラ伴奏を伴って、メサイアやハイドンのオラトリオなど古典音楽の演奏と解釈を深める目的で組織されたボストンのヘンデル・ハイドン協会は、1815年の設立です。

 19世紀末、チャイコフスキーやドヴォルザークは、ヨーロッパ以上にアメリカで認められ、繰り返し演奏されて人気が確定しました。

 ドヴォルザークの代表作、交響曲第9番、新世界より、はアメリカで作曲されたものです。

 ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ラフマニノフ、マーラーなどは、アメリカでレパートリーとして定着して世界へ広まりました。

 現在、CNNのサイトに掲載された世界の偉大なオーケストラトップ10は、1位、ベルリンフィル、2位、ウイーンフィル、3位、ニューヨーク・フィル、4位、ロイヤル・コンセルトゲボウ・オーケストラ、5位、ロンドン響、

 続いて、6位、シュターツカペレ・ドレスデン、7位、ラウプツィッヒ・ゲヴァントハウス管、8位ザンクト・ペータースブルグ・オーケストラ、9位、チェコ・フィルハーモニー、10位、東京フィルハーモニーとなっています。

 ほかのランキングでも、ニューヨーク・フィル以外に、シカゴ交響楽団、クリーヴランド管弦楽団、ロサンゼルス・フィル、ボストン交響楽団、サンフランシスコ響メトロポリタン歌劇場管弦楽団などが挙げられています。

 トスカニーニ、バーンスタイン、ショルティなどのカリスマ指揮者や、名オーケストラが数々あるアメリカのオーケストラを知らずして、もはやクラシック音楽は語れない状況にあります。

 本書は、これまで余り知られてこなかったアメリカのオーケストラの形成過程をひもときながら、どのようにアメリカが近代オーケストラの形成に貢献したかを紹介しています。

 第1章では、19世紀にアメリカでなぜオーケストラが重要な文化の担い手になったのか、そして、なぜ20世紀初頭には世界水準の演奏団体へと成長できたのか、その理由を探っています。

 第2章では、20世紀前半、オーケストラが大衆的な存在となった過程を、フィラデルフィア管弦楽団を率いたストコフスキーと、そのライバルだったニューヨーク・フィル率いるトスカニーニを軸に説明しています。

 第3章では、20世紀半ばになり、アメリカのオーケストラが、聴衆の拡大やレコード技術の発展などにより、大きな文化産業へと発展し、世界の音楽界に影響を与えていく姿を迫っています。

はじめに なぜアメリカのオーケストラなのか?
第1章 オーケストラ大国の礎
 オペラハウス・ブーム/オーケストラの伝道師トーマス-地域オーケストラの誕生/スパルタ指揮者!マーラー-アメリカ音楽界の飛躍/ドイツ音楽界からの脱皮
第2章 オーケストラ大衆時代の到来
 スター指揮者誕生/アメリカで花開いた現代指揮法
第3章 悲劇と栄光の指揮者たち
 新しい音楽界ビジネスの出現/レコード業界の飛躍/幻のシカゴ響音楽監督フルトヴェングラー/最後の勝利者ライナー
第4章 スーパー・オーケストラの登場
 アメリカ生まれのスター指揮者/ゲオルグ・ショルティ/クリーヴランド管弦楽団-セルとその遺産
第5章 オーケストラ大国アメリカの発展
 オーケストラ・ダイナミズムの時代/米国オーケストラの発展支えたもの)
主要参考文献