始めて、バイオリンの話をしてみたいと思います。


趣味で時々中古のバイオリンを買っているのですが、安いものしか買わないため、壊れている状態のものもよくあります。


そんな時は以下の条件を満たすものは自分で手を入れています。


  • 購入額が20万円以下であること
  • 自分で対応しきれる故障であること
  • 人様の楽器ではなく、自分が所有しているもの
  • 直す価値があるもの


今回はこの条件を満たした、バイオリンの修理挑戦記です。


先日、ドイツ製のバイオリンを購入しました。

製作者はSchreiber & Lugertで、球数が少ないため名は知られていませんが、ドイツのハンブルクで活動しているWinterlingというバイオリンメーカーで、一時期事業を任されていたほど腕は確かな職人達のようです。



まずは表板から見ていきます。
左右が綺麗な線対称ではないですが、違和感がありません。

実はバイオリンは綺麗な線対称でないことも多いです。
単純に技術がなくて、たまたまこうなってしまった場合は論外ですが、製作者の考えによって、F字孔の位置やCバウツの位置、ウイングの高さや、ボディの輪郭まで、様々な箇所に試行錯誤を盛り込む要素があります。

それを全体のバランスで違和感なく見せ、かつ音も良く仕上げるには相応の技術が必要となりますが、この楽器からはそういったスメルを感じ取りました。
(もちろん線対称の楽器でキレイに仕上げていて、音がよいものもたくさんあります。どちらが正解とかはないです)

材質も木目が詰まって真っすぐで悪くありません。


続いて裏板です。1枚板が使われています。
キラキラして燃えるような今ではないですが、それなりの楓を使っていそうです。
コーナーもキレイに振られています。


スクロールはドイツっぽいですね。
横板も大きな問題は無さそうです。内枠式のようです。



駒には製作者のスタンプが押されていました。
これも少し非線対称に狙って掘られています。



これはいいかもと思い、入札で競ってみると無事落札できました。
しかし待つこと数週間、届いてチェックしてみると思わぬ落とし穴がありました。。。



ぎゃああああ。

テールピースの下に画像では確認できなかった大きな割れ(というかセンター剥がれ)がありました。
割れ目も大きく、このまま弦を張ると張力の影響を受けて、更なる割れや変形に繋がるので、そのままにはできません。

まずは上の画像の通り黒檀の下ナットを取り外します。
造りや素材がまともであれば、木片などを当ててハンマーでコンコンと叩くと、膠が割れて外すことができます(そうでない場合は、ナットが割れたりして、作り直しになります)

次に表板を外します。
私は100均で購入したケーキナイフを加工して小さいスパチュラナイフにしています。
名前の通り、触っても指が切れない程度の厚みがあって、かといって厚すぎない程度に仕立てています(銀行やクレジットカードの厚みの1/2くらい)
これを横板と表板の間に入れて横に滑らせて外していくわけですが、刃が薄すぎると思わぬ拍子に横板側や表板側に逃げて突き抜けてしまい、大惨事となります。


最初に刃を入れる前に、入れる隙間(きっかけ)が欲しいので、表板のエッジの裏に木片を当てて、ハンマーで少しだけ強めにコンと叩くと、膠が割れて隙間ができるので、そこに刃を入れます。
このきっかけを作る場所も木目の流れを見ながら適切な箇所に作らないと表板がさらに割れる事故に繋がります。



刃を入れて、横にスライドしてF字孔の辺りまで来た画像です。親指を添えながら刃を進めます。刃が思わぬ方向に逃げたり、木が変な割れ方をすると表板が僅かに膨らむなど予兆があるので、それを事前に察知するためです。



バイオリンには6箇所ブロックが入っていて、ここは接着度が高いので、他の長いスクレーバーを入れたり、工夫しながら外していきます。



※横からみたらこんな感じ。

作業に集中すると画像を撮り損ねてしまいます。。
最終的にはこんな感じで、そこそこ綺麗に外せました。



それでも、肝に命じておかなければならないことですが、バイオリンの世界では 修理すること≒破壊すること と言われています。

どんなに綺麗に直したとしても、オリジナルの木やニスの一部は失われるからです。
そのため最低限の修理で、問題なく長期間使えるのが良い修理となります(もちろん、見た目も美しく修の要素も伴っていればより良いです)

続きはまた後日書きたいと思います。
それでは!