当たり役に当たりにいってもらいました、いきました。 | 劇団 貴社の記者は汽車で帰社

恒例のトリを失礼します。
作・演出に、役者としては主に「吉備津の釜」のイケメンクズこと井沢正太郎を演じた千野です。

今回はなんだか、一度やってみたかったことをたくさん詰め込んでしまいました。
舞台をぐるりと囲む客席とか、短編オムニバスとか、メタ的な視点を入れるとか……。
あ、そうそう、そもそも企画自体が役者ありきだったんですよ。
「ヤンデレな久実子に恐怖したい」「植竹に東とカラんでほしい」「久保田は可愛い役が似合うってそろそろ認めろ」「やっぱ小百合は薄幸だよな」「みんなが那美のあざとい子役を待ってる」「吉田は徳高いってことになってるから何かやらかせ」
みたいなものが、ぜーんぶ詰め込める奇跡みたいな作品が『雨月物語』だったというわけなんです。

……ついでに自分も、「クズみたいな男なら任せろ!」なんて思ったりして。(ええそうです、私が作家ですからね、「イケメンクズのひとり息子か」「千野さん、出番ですよ!」「なんでだよ!」のくだりも私が自分で書いたわけですからね笑)


……とはいえ。
こんなこと言うのはとてもとてもカッコ悪いのですが……でも、あえて言うなら、本当はどの役者も、すごーくがんばって役作りしてくれてたんですよね。
だって、「この役が似合うだろうという他者の評価」と「本人の自意識」は意外とかけ離れているんですから。
でも、そこをどうにか乗り越えるのが役者の仕事だったりして、そしてそれができちゃったりすると、「ハマり役!」なんて言われ、「素でしょ?」「本当はそういう人だったんだね?!」みたいなところにたどりつけるわけで……今回の役者たちには、そういうこと求めてたんでした。

うん、そう、「当たり役」って、結局、自分で当たりに行くしかないんだろうな。
お客様の目に、その成果はどのように映ったでしょうか……。

さて。
役者としての自分ですが……「浅茅が宿」の雀部の曾次くん(目指せ胡散臭さ全開!)とか、「菊花の約」(午前・夜の部)とか「青頭巾」(午後の部)の語り(オーソドックスを装って存在感を誇示しまくったぜ!)とかは……まぁ、いいですかね(笑)。
それなりに思い入れもあるんですが……やっぱり今回の私の仕事は、あのイケメンクズですよね(笑)。「本気のイケメンクズ。あるいは、プロのクズの仕事」なんて言ってましたが、どうでしたでしょう。
今まで、「イケメンを演じてるはずなのになんか残念になる」「ヒーローのはずなのにどこかしらクズっぽくなる」なんて言われてきたので、「そこまで言うなら見せてやろう、本気のクズをな!!」というのが今回の自分のノリでした。すごく楽しかったです。だってハマるって分かってたもん。
とはいえ。私は作・演出もやっているせいか、お客様には作品そのものの感想をいただくことが多く、役者としての感想はなかなかもらえないのですが、今回はどういうわけか「見事なクズだったね!」等々、役の感想をたくさんいただきました。こんなの初めてです(笑)。それが本当に嬉しかったです。
……まあ、あまりにハマりって言われるんでさすがに「いやいや、いろんな技術を駆使してクズに見える演技をしてるんですよ!!」と言いたくなるんですが、それはカッコ悪いので言いません(書いちゃったけど)。

……あ、そうそう、終演後、初参加のスタッフさんに真顔で、
「千野さんはいつからイケメンなんですか?!」
って恥ずかしい質問をされたんですが(苦笑)、これには付き合いの長い玲子さんが、
「残念なイケメン(笑)になったのは『かすがの』からだよね」
という的確な答えを返してくれました。
『かすがの』(2010年初演)といえば、自分がキシャでがっつり男を演じる羽目になったきっかけの作品。演じたのは、『伊勢物語』二条后章段の在原業平でした。
そう思うと感慨深いものがあります。
というのは、「吉備津の釜」は『伊勢物語』の影響が指摘されている作品でもあるからです。
駆け落ちや、閉じこもった場所で鬼に食われる……なんて要素は、『伊勢物語』二条后章段、というか、第六段(いわゆる「芥川」)です。しかも原文を読むと、正太郎の断末魔は「あなや」って、『伊勢物語』第六段と全く一緒なんです。
で、そんな『伊勢物語』第六段のエピソードは、もちろん『かすがの』でしっかりがっつり演じました。
……何が言いたいかというと。
『伊勢物語』の在原業平で始まった自分のキシャでの歩みが、その影響下にある井沢正太郎で、いったんある種の集大成的なところに来ちゃったのかもしれない、という、そういうことです。
いや、たどりついた先が「イケメンクズ」ってそれどうなんだおかしいだろって思うんですが(笑)。
奇しくも30歳になったばかり。とても、運命的なものを感じたのでした。

ともあれ、今回もたくさんの皆さまからご声援をいただき、本当にありがとうございました。
感謝の気持ちは、次なる作品を作り続けることで返していこうと思います。

 


2017.2.11

次回作の稽古初日、の前日に。

千野裕子