L-セリン :ALS(筋萎縮性側索硬化症)、パーキンソン病、アルツハイマー病対策への急進的な新アプローチ

マイケル・マレー博士、自然療法医※
 

打開策

従来の研究の中には一流大学、大手製薬会社、国立研究所ではいずれも、退行性脳障害を停止したり、進行を遅らせたり、逆行させる可能性のある発見はありませんでした。


セリンによるBMAA※毒性予防法

BMAA※が、脳タンパクの形状を変化させることで、脳に損傷を与える際に置き換えられるのがL-セリンです。

基本的に脳細胞は、BMAAだけでなく、さらに高毒性型のニトロソBMAAをもL-セリンと取り違えます。

脳細胞が、生成するタンパク質中のBMAAをL-セリンに置き換えると、それが正常に形成されていないタンパク質を引き起こし、タンパク質の変性と脳細胞への毒性につながるのです。
タンパク質が適切に折り畳まれません。

異常な形で折り畳まれるか、まったく折り畳まれなくなります。

初期研究の多くは、米ワイオミング州ジャクソンホールのコックス脳化学研究所に勤務する科学者が実施しました。

アルツハイー病に考えられるBMAAの影響

脳内では、BMAAはβ炭酸と呼ばれる毒素の形成にもつながる可能性があります。
この化合物は、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体などの神経伝達物質のために、脳細胞の受容体に結合することができます。
こうして、多数の原因により細胞が損傷を受けやすくなり、脳細胞死につながる場合があります。

※BMAA(脳変性疾患の原因となる毒性化合物であるβ-メチルアミノ-L-アラニン)

BMAAとL-セリンの実験的研究

前臨床試験では、BMAAに晒された脳細胞がL-セリンにも晒されたところ、ミスフォールド(誤って折り畳まれた)またはアンフォールド(折り畳まれていない)タンパク質の形成を阻止しました。
さらにL-セリンは、BMAAが誘発する脳細胞死を引き起こす酵素の形成においても増加を防ぎました。 

2016年にマイアミ大学の研究者が実施した研究では、脳の保護におけるL-セリンの重要性が明確に示されています。

ヒトのアルツハイマー病のリスク増加に関連する遺伝子を持つサルに、BMAA、L-セリン、または両方の組み合わせを配合したバナナを与えました。

BMAAを摂取したサルは、脳内に繊維のもつれやプラークが見られました。
これはアルツハイマー病の特徴です。

一方、同時にL-セリンも摂取したサルは、脳組織内にこのような「もつれ」が80〜90%も少ないことが分かりました。 

ALSにL-セリンを用いた臨床試験

ALSにL-セリンを用いた前臨床試験が非常に有望であったことから、この衰弱性疾患への有益性を断定するために、現在ヒト臨床試験でL-セリンが使用されています。

最初の研究である第I相(フェーズI)臨床試験は、1日2回、0.5g、2.5g、7.5g、15gの用量の安全性評価が目的でした。

L-セリンを摂取した被験者が、他5件のALS臨床試験でプラセボ群と比較されました。
主な結果として、L-セリンが全用量で安全であることが示されました。

この研究では、身体機能低下の変化がALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R)スコアで測定され、プラセボ対照群と比較されました。

1日2回の摂取量15gで、驚くべき結果が出ました。
この用量で、なんと85%もの減少が見られたのです。


極めて有望な結果であることは明らかです。
現在、ダートマス・ヒッチコック医療センターで第II相(フェーズII)が進行中です。

ただ、L-セリンの安全性に加えて、効果的な薬物療法が存在しないことを考慮すると、現時点でL-セリンを補給しているALSの被験者に害はありません。

一方で沖縄は、島民の健康長寿がよく知られています。
都市から遠く離れた大宜味村は、原型的な「長寿の里」とされ、島の北側に約4000人が住んでいます。
世界保健機関(WHO)によると、この小さな村は、100歳以上の人口比世界一を誇ります。
健康と長寿には多くの要因が考えられます。
食事や運動だけでなく、人間関係が充実した親密なコミュニティであることや、母権制社会であることも挙げられます。

ただし、興味深いのは、大宜味の食事はL-セリンが豊富で、典型的なアメリカ人の食事の3〜4倍の濃度が摂取されていることです。

L-セリンとホスファチジルセリンを比較

脳内で、セリンは脂肪酸とグリセロール(グリセリン)に結合してホスファチジルセリンを形成し、脳の主要なリン脂質となります。
ホスファチジルセリン (PS)は、細胞膜の統合性と流動性を左右する要因です。

通常、脳は十分な濃度のホスファチジルセリンを生成できるものの、高齢者のPS濃度が不十分であると、高齢者のうつ病や精神機能障害の原因となる可能性があることが実証されています。

多数の二重盲検試験で、PS補給による良好な結果が得られています。

とりわけ、これらの研究では、アルツハイマー病やパーキンソン病の初期段階の患者を含む高齢被験者の精神機能、気分、行動を改善するPSが示されています。

典型的な抗うつ剤とは異なり、ホスファチジルセリンはセロトニンやその他の神経伝達物質に影響を与えず、ストレスホルモン「コルチゾール」分泌の減少といった他の作用機序が示唆されています。

標準的な1日のPS摂取量は300 mgですが、上記の結果を考慮すると、L-セリンのみの栄養補給で、より良い結果が得られる可能性があります。

L-セリンで栄養補給

第I相研究に基き、1日2回15gのL-セリン補給は安全であり、ALSをはじめ、おそらくアルツハイマー病で最も高い効果が期待できる用量であると考えられます。

別の推奨用量としては、1日300 mgのホスファチジルセリン (PS)です。


※Dr Murray Profile Picture
この記事の著者は、iHerbの首席科学顧問であるマイケル・マレー博士です。博士は、30余年の経験を持つ栄養学、栄養補助食品、自然食品の専門的権威であり、著書も多数出版しています。その数は30作を超え、代表作として、全世界で10万人以上の医療専門家に読まれ、第5版を重ねるベストセラーEncyclopedia of Natural Medicine(自然療法百科事典)などがあります。