暴力団という言葉は、すでに過去の遺物のように語られることが多い。
反社会的勢力の資金源は断たれ、若者の加入も減り、組織そのものが衰退している──そんな印象を抱く人も多いだろう。
だが、全国でただ一つ、「特定危険指定暴力団」として名指しされ続ける組織がある。北九州市に本拠を置く「工藤会」だ。
私がこのテーマを取り上げようと思ったのは、気になるニュースが入ったからである。
気になるニュースというのはまだ調査中の段階なので詳細は伏せるが、そのニュースに関連する「工藤会」を調べているうちに気になったことがあったのであえて今記事に残しておく。
福岡県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、北九州市に本部を置く指定暴力団「工藤会」に対して、2022年12月8日付で「特定危険指定暴力団」としての指定を延長すると発表した。
「特定危険指定暴力団」とは、市民や企業に対して暴力的要求行為を行うおそれがあると認定された暴力団に対して、通常の指定暴力団制度よりも強い監視・取締り措置を可能とする制度だ。
工藤会がこの指定を受けたのは2012年12月が初めてで、以降毎年、期限を延長しており、2024年12月には延長が再び決定されたとの報道もある。
加えて、2025年3月時点では、改めて11回目の延長が行われていると公表されている。
結果として、工藤会は「全国で唯一」の特定危険指定暴力団として位置づけられており、暴力団対策上、特異な扱いを受けている組織である。
指定制度の中身と工藤会に課せられた措置
「特定危険指定暴力団」に指定されると、以下のような措置が警察・公安委員会によって講じられる。
・みかじめ料の要求、面会の要求、電話・メール等による圧力、事務所使用など、暴力的要求行為に対して“中止命令を経ずに逮捕可能”という強化措置。
・組事務所を警戒区域とし、組員の集合・うろつき・出入りといった行為を規制する。
・組織の活動基盤(事務所・資金源・組織間関係)に対する捜査・資産凍結・使用禁止などを促す。例えば、工藤会傘下の複数事務所について使用禁止の仮処分が出されたという報道もある。
工藤会の場合、指定後も「暴力的な要求行為が続いている」との福岡県警の判断が、延長理由として挙げられている。
また、構成員数の減少や本部事務所看板の撤去など“弱体化”の兆しも報じられているが、それでもなお「特定危険」としての指定を続けることが必要だという当局判断がある。
なぜ「延長」が続くのか――背景と意義
① 暴力団の“構造的な危険性”
工藤会は過去、市民襲撃事件や港湾工事への介入など、一般市民・労働現場を対象にした暴力行為が長年指摘されてきた組織である。
このため、暴力団対策法が改正された2012年以降、「市民や企業に重大な危害を加えるおそれがある暴力団」として、特定危険の指定対象となった。
② 継続的な取り締まりと活動変化
指定後、福岡県警を中心とした捜査・離脱支援・事務所撤去などの取り組みが進められており、例えば10年で事務所28か所の撤去という報道もある。
構成員数もピーク時の1,210人から20%以下に激減していると報じられている。
こうした変化にもかかわらず、依然として「危険性あり」と判断され続けているのが、延長の背景にある。
③ 制度的禁止・抑止メカニズムとしての機能
指定延長は、暴力団をただ「指定暴力団」というカテゴリに置くだけでなく、より強い取り締まり手段を政府・公安委員会に与える枠組みである。
つまり、延長をすることで「この団体には特別な監視状態が続いている」という社会的シグナルを発する意味もある。
工藤会の「特定危険指定暴力団」としての登録・指定延長という制度的な枠組みは、暴力団対策における先鋒のひとつである。全国唯一という文字は、制度運用上の“モデルケース”でもある。
だが、延長という形で制度が維持され続けることは、言い換えれば「危険の可能性」が継続しているという状態の裏返しでもある。
その背景には、暴力団が社会に侵入し、企業や地域の“見えない構造”に根を張ってきたという現実がある。
制度の枠を超えて、「取るべき次の一手」「抜け道を塞ぐ実務」が問われ続けているのが、現在の暴力団対策の課題だ。
この制度の延長が、単なる“指定を維持するための形式”に終わらず、実質的な組織崩壊・地域からの暴力団排除につながる転機になりうるか――
そこが、今後の注目点である。