重大事件の背後で、容疑者の行方を追う捜査員たちは、法と情報の網を張り巡らせている。
「指名手配」と「懸賞金」──この二つの制度は、逃亡者を追い詰める国家の仕組みとして、長年運用されてきた。

 

 

指名手配の仕組み──逃亡者を“公にする”という決断

警察が容疑者を逮捕できず、行方をくらませた場合、裁判所の逮捕状を得て「指名手配」となる。
この時点で、顔写真・特徴・逃走経路などが全国に公開され、警察庁や都道府県警のウェブサイトに掲載される。

一部の事件では、警察庁が指定する「特別指名手配」が行われ、全国的な捜査体制が敷かれる。


2018年に大阪府吹田市で起きた警察官襲撃・拳銃奪取事件でも、容疑者は特別指名手配の対象となり、全国に顔写真と映像が流れた。最終的に、事件発生から約30時間後に逮捕されている。

このように、指名手配とは「捜査を公にする」手段であり、警察の権限だけでなく、市民の協力を得ることを目的とした公開捜査である。

 

 

懸賞金という“もう一つの網”

指名手配と同時に設けられることがあるのが、「懸賞金(報奨金)」制度だ。
殺人、強盗致傷、放火など、生命や財産に深刻な影響を与えた事件では、警察が情報提供者に最大1000万円の懸賞金を提示することがある。

 

2007年の長崎市長射殺事件や、2010年の厚木市スナックママ殺害事件などでは、犯人逮捕に結びつく有力情報に対し、懸賞金がかけられた。
特に「福岡一家4人殺害事件」では、警察が最大300万円、民間の公益財団法人「全国防犯協会連合会」が同額を上乗せし、合計600万円の懸賞金が提示された。

懸賞金は、事件解決に直接結びついた情報提供者に対して支払われる。
支給の判断は、警察が「情報が逮捕・検挙に寄与した」と認定した場合に行われ、提供者の身元は厳重に保護される。
匿名での通報が可能なケースも多く、報奨金の支払いは秘密裏に実施される。

 

 

情報の断片から逮捕へ──懸賞金が導いた現場の実例

懸賞金が大きな役割を果たした事件のひとつが、2007年の「広島・安佐南区一家殺害事件」である。
当初、犯人像は不明だったが、懸賞金制度により寄せられた複数の情報が決め手となり、逃亡していた男が福岡県内で発見・逮捕された。
警察は「一般市民からの通報が決定的だった」と発表している。

また、長期間逃亡を続けた事件では、国際手配(ICPO)を通じた連携が行われる。
2001年の三重県四日市市の女性射殺事件では、容疑者が海外に逃亡。警察はICPOを介して国際手配を行い、10年以上後にタイで逮捕・送還された。

これらのケースは、情報の断片が時に数年越しに実を結ぶことを示している。

 

 

現代の“逃亡者捜査”──AIと監視の時代へ

近年では、警察が指名手配者の「加齢顔」や「容姿変化後の予測画像」をAIで生成・公開する試みも始まっている。
実際、長期逃亡していた殺人事件の容疑者が、顔の輪郭や髪型の変化を再現した画像から特定された例もある。

また、監視カメラ・防犯ネットワーク・交通系ICの使用履歴などを活用し、行動パターンを分析して潜伏先を割り出す「デジタル捜査」が主流となりつつある。
逃亡者が現金を持ち歩き、携帯やカードを使わない生活を続けても、周辺の通信や監視網から足取りを追跡されることが増えている。

 

 

見えない網”の中で

指名手配から懸賞金、そして逮捕に至るまでの過程は、単なる公開捜査ではない。
それは、市民・情報網・技術のすべてを使って逃亡者を追う、「見えない網」の運用でもある。

逃げ場を失うのは、容疑者だけではない。


国家が築いたこの網は、情報社会そのものの姿を映している。
どこまでが正義のための捜査で、どこからが過剰な監視なのか──その線引きは、今もなお曖昧なままである。