新宿・歌舞伎町。
深夜の繁華街で、若いスカウトたちが突如、数人組の男たちに取り囲まれる。

殴打され、携帯を奪われ、SNSのアカウントを晒される。現場の映像がXやTikTokに流れると、「スカウト狩り」という言葉が拡散した。

 


一見すると“自警団”のような振る舞いだが、その実態はもっと複雑で、そして暴力的である。

歌舞伎町のスカウトとは、キャバクラや風俗店、ホストクラブなどに女性を紹介する“仲介業者”だ。

彼らの多くは20代前半。報酬は完全歩合制で、稼げば月に数百万円を得る者もいる。

だがその裏には、紹介料の取り分をめぐるトラブルや、違法な風俗への斡旋など、常に法のグレーゾーンが存在する。

警察も“風営法違反の温床”として目を光らせてきたが、摘発が追いつかないのが実情だ。

 

 

2020年に入ってから、歌舞伎町では「スカウト狩り」と呼ばれる現象が顕著になった。
例えば、2020年6月、繁華街の路上でスカウトの引き抜きを巡り、住吉会系組員とスカウトグループの男ら計7人が「暴力行為等処罰法違反」「傷害」の疑いで逮捕された。両者は数日間にわたり路上でスカウトを捜し回っていたという。


また、同年12月には、スカウトとみられる男性に対して「新宿に立ったら目を刺すぞ」などと脅し、車から引きずり出して暴行を加えたとして、住吉会系幹部ら4人が逮捕されている。
これらの事件は「スカウト狩り」という言葉でSNS上にも多数情報が出回り、通常のトラブルとは毛色の違う“集団による制圧行為”として認識されるようになった。

 

 

それ以降、歌舞伎町では「スカウト狩り」と呼ばれる現象が目立ち始めた。


夜の繁華街を歩くスカウトを狙い撃ちし、暴行を加える。

 

 

中には、スカウト会社の看板や名刺を取り上げ、動画で「違法スカウト撲滅」と称して拡散するグループも現れた。
彼らは自らを“街の浄化”と正当化するが、実際には半グレや元スカウトが関与しているケースも多い。

縄張り争い、報復、あるいは金銭トラブルの清算が目的とされる。

 

スカウト狩りの被害者の中には、「スカウト同士の揉め事が発端だった」と話す者もいる。
「彼らは正義じゃない。スカウトを名乗れば誰でも狙われる。制裁というより、見せしめだ」と、ある元スカウトは語る。
暴行、恐喝、監禁など、明らかに刑法に触れる行為も確認されている。にもかかわらず、被害届を出す者は少ない。

背景には、被害者自身が違法行為に関わっているため、警察沙汰を避ける心理がある。

 

 

警察も動いてはいるが、現場での暴行は一瞬で終わり、証拠も少ない。

SNS上の動画も匿名投稿が多く、加害者特定は難しい。


風営法は「スカウト行為そのもの」を全面的に禁止しているわけではない。適法スカウトと違法スカウトの線引きが曖昧なため、暴力による“自浄作用”がまかり通る土壌が生まれている。

 

「スカウト狩り」という言葉は、あたかも“悪を成敗する行為”のように響く。しかしその実態は、街の治安を守るどころか、暴力の支配を強めるだけだ。


SNS時代の“見せる制裁”は、私刑の文化を加速させている。
スカウトを憎む者、街を浄化したい者、動画で注目を浴びたい者──それぞれの動機が混じり合い、夜の歌舞伎町は今も不穏な熱を帯びている。