刑務所内でも、いわゆる「娑婆」の世界と同様、地位争いやいじめなどの様々な問題が日々起こっている。
受刑者同士の喧嘩から、刑務官による暴行、逆に職員が襲われる事件まで。
閉ざされた刑務所の中では、社会の目が届かないところで、様々な暴力が静かに繰り返されてきた。
受刑者同士の暴力
刑務所で最も多いのは、受刑者同士の暴力だ。
雑居房では複数人が同室で生活するため、些細な言い争いが殴り合いに発展することもある。
2020年、札幌刑務所で受刑者が同房者を金属スプーンで刺して負傷させた事件が発生。
2022年には宮城刑務所、2023年には福岡刑務所でも暴行事件が報告された。
動機の多くは「私物の扱い」「貸し借り」「作業態度への不満」といった日常的なものだ。
だが、刑務所では被害を訴えにくい空気も根強い。
報復を恐れて沈黙する受刑者も多いのだ。
実際に受刑者が死亡する事件も多発している。
2003年東京拘置所、2007年福岡刑務所、2009年盛岡刑務所、2015年奈良少年刑務所、2018年広島刑務所…など報道はそう多くないが、死亡するに至る事件も多く発生しているのが事実だ。
ただ、「たまたま死ななかった」というケースも多く、暴力事件としてはかなりの数があるのではないかと考える。
刑務官による暴行
2023年、名古屋刑務所で刑務官3人が受刑者に暴行を加えた事件が発覚した。
監視カメラに映っていたのは、日常的に蹴る、殴るといった暴力の様子だった。
刑務所内部での暴行が証拠映像によって明るみに出たのは異例であり、
この事件をきっかけに、刑務官の処遇と監視体制の見直しが全国で進められた。
背景には、慢性的な人手不足と長時間労働、そして「厳しさも更生の一環」という古い意識があった。
職員の間では「しつけと暴力の境界」が曖昧なまま、閉鎖された職場文化の中で不正が常態化していたと指摘されている。
刑務官への暴力
一方で、刑務官が受刑者から暴力を受ける事件も後を絶たなかった。
2021年には関東地方の刑務所で、受刑者が職員を殴打して骨折させる事件が発生。
同年、拘置所内でも被告人が暴れ、制止しようとした刑務官が負傷する事案が報告されている。
特に、薬物依存や精神疾患を抱えた受刑者による突発的な暴力が増加傾向にあり、
矯正局の資料でも「職員被害件数」は年々増えていた。
現場の刑務官からは「我々も被害者だ」「命の危険を感じることもある」といった声が上がっていた。
暴力が絶えない理由としては、刑務所は社会の秩序を取り戻すための場所であるはずだが、その内部では暴力が秩序を保つ手段になっていたとも言われる。
原因は複合的だ。
・職員不足と過重労働
・精神疾患・高齢化によるトラブル増加
・「報告すれば自分が損をする」という沈黙の文化
・監視や外部チェックの届かない閉鎖性
こうした構造的問題が、暴力を温存する温床となっていた。
暴行が事件化する裏では、数え切れない小さな暴力と緊張が日常に潜んでいる。
暴力の連鎖を断ち切るには、処罰の強化よりも、職員教育と受刑者の精神的ケア、そして「外から見える刑務所」の実現が不可欠だ。
閉ざされた壁の中で起きたことは、社会の影でもある。
一般の社会で行われていることが、この小さな閉ざされた世界でも発生しているのだ。