毎年数万人を動員する国内最大級の音楽フェスE。
今年も海外アーティストを含む豪華ラインナップが発表され、チケットは即日完売するほどの人気ぶりで、SNSでも注目されていたものだった。
だが、開催予定の1か月前に主催者は突如「諸事情により開催中止」と発表した。
突然のスポンサー離脱の理由
後に関係者の証言で浮上したのは、「反社チェック」での問題だった。
フェスを主催する運営会社の取引先に、暴力団の資金が流れ込んでいる可能性があるとスポンサー側が指摘があり、調査が入った。
大手飲料メーカーをはじめ、複数のスポンサーが一斉に撤退したのだ。
イベント運営側が最初に受け取ったのは「スポンサー契約解除」の短いメールだった。だが裏で何が起きていたかを辿ると、単純な「一件の不祥事」ではなく、複数のチェックが段階的に“赤信号”を点滅させた結果だった。
1) ルーティンの最終デューデリジェンスで最初のアラート
大手スポンサーC社は、開催直前の最終承認プロセスとして外部のコンプライアンス部門に再チェックを依頼していた。そこで使われたのは、民間の反社情報データベースと過去のメディア検索の組み合わせである。
最初にヒットしたのは、C社が長年マーケティング案件を外注していた下請け企業の名前だった。データベースには、その企業の役員に「過去に暴力団関係者と名義を共有していた」という注記が残っており、これが一次的な赤旗となった。
2) 実質所有者の不整合
疑念を受け、C社のコンプライアンス担当は外部のKYC(顧客確認)業者に依頼して実質所有者の追跡を行った。すると下請け企業の持ち株構造に、海外の小規模なシェル会社を介した回路が見つかる。
過去に「フロント企業」とされた企業群と登記情報が部分的に重なっていたことが確認され、これが「間接的に反社とつながる可能性あり」と評価される決定的な要因になった。
3) 過去記事・内部告発の断片的情報が結びつく
さらに調査を続けると、数年前の地方紙の古い記事や匿名掲示板の断片的な書き込みが、それらの企業名や個人名に結びつくことが明らかになった。単発では証拠に乏しいが、登記情報、取引履歴が重なり合わせることで「線」が見え始める。
社内のリーガル部と相談した外部弁護士は「将来的な報道リスク、行政調査リスクが高い」と判断した。
4) 法務部門・取締役会の“ブレーキ”
ここまででC社は社内の最終会議を開き、弁護士のリスク評価を受けた。弁護士は「現時点で確定的な違法行為の証拠はないが、履歴としての“つながり”が複数ある以上、スポンサーを続けることは重大な評判リスクを伴う」と助言。
取締役会は、株主や取引先の信頼を守るためには即時の対応が必要だと判断し、契約解除を指示した。
5) 最終決断と現場の混乱
契約解除の通知は迅速に出され、会場からスポンサー露出物の撤去、広告差し替え、プレス対応が始まった。主催側は数千万円規模の差し替え費用やイメージダウンのコストを被ることになったが、C社は「将来的リスクの拡大を避ける」選択を優先した。内部では「たとえ過去の関係だとしても、感情的な世間の反応が致命傷になる」との判断が強かったという
出演者・ファンへの余波
アーティスト側も「反社絡みのフェスには出られない」として次々に出演を辞退。
結果的に、予定されていたイベントは完全に白紙化された。
チケットの購入者などからは「チケット代を返せ」「楽しみにしてたのに」というファンの声が爆発。運営窓口はパニックに陥った。
キャンセルによって会場の設営費だけでなく、海外アーティストからの信頼、損害賠償、責任は重くのしかかった。
それだけでなく、フェスのVVIP席を確保してもらい、SNS上にそのことを自慢していた参加者からは、「私自身まで反社とかかわりがあると疑われることになった。慰謝料を支払え」などといわれる始末。
さらに「音楽フェスにまで反社が入り込むのか」と社会的な不信感が拡大した。