聴覚障害のある観光客へのもてなしを想定した京都市の「手話言語がつなぐ心豊かな共生社会を目指す条例」(手話言語条例)が4月1日に施行され、1カ月が過ぎた。耳の不自由な観光客を対象とした全国的にも珍しい条例だが、ろうあ者の「耳」となる手話ガイドの養成など、環境の整備にはまだ時間が掛かりそうだ。
■時間や地域性、習得の壁に
「今日は暑かったですね。体調はどうですか」。市聴覚言語障害センター(中京区)で19日にあった手話講座の入門編。初心者80人が、ろうあ者の講師から自己紹介やあいさつを学ぶ。私語の一切ない室内で、受講者は講師の手話を見逃すまいと凝視し、見よう見まねで手を動かした。
受講しているのは、趣味として親しむ人から各自治体が認定する「手話通訳者」を目指す人までさまざまだ。右京区の近藤千尋さん(24)は「思ったよりも難しく、伝わらない時はもどかしい。簡単な会話ができるようになるのが目標です」と話す。
同センターによると受講希望者は年々増え、30年以上続く募集のうち今年は過去最高の139人から応募があった。担当者は「メディアで手話を扱う機会が増え、認知されてきた」と喜ぶ。
4月1日に施行された手話言語条例では、手話の普及や理解促進や、耳の不自由な観光客へのもてなしも定めている。市や市民に対し、手話を必要とする旅行者へのサポートを明記する。全国ろうあ連盟によると、手話に関する条例がある全国47自治体のうち、観光客を対象に含めた条文は珍しいという。
ただ、聴覚障害者の観光を手話で支援する取り組みには課題もある。観光地を案内する手話ガイドの育成もその一つだ。
目が不自由な人と違い、耳が不自由な人への観光ガイドには手話の習得が必須となる。養成には一定の期間が必要となる上、都道府県や京都府内の地域ごとでも手話に違いがあることが、習得のハードルを高めている。
現在、京都市内で唯一観光地の手話ガイドを行う団体は「手話メイト」(右京区)のみだ。ただ、登録するガイドの人数にも限りがあるため、積極的な広報が難しく、昨年度のろうあ者の利用は2件にとどまった。
石川県金沢市の「市聴力障害者福祉協会」では、全国に先駆けて市が設立した「金沢ボランティア大学校」の卒業生が手話ガイドを務める。北陸新幹線開業でろうあ者の観光客も増え、昨年度は50件524人を案内した。
ろうあ者の中には、手話のできる健常者や通訳者とともに旅をする人も多いが、担当者の谷内富夫さん(68)は「聴覚障害者にとって、手話ができる人が旅先にいる安心感は大きい。地元の人間から歴史や文化の説明を直接受けられて、理解が深まったと喜ばれる」という。
「国際観光都市」を掲げ、今後ますます聴覚障害者の旅行者増が見込まれる京都。外国語によって異なる手話に対応することも合わせ、ろうあ者が安心して過ごせるための環境の整備が急がれる。
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