そういえばフランスには　カリオストロ伯爵もいたんだっけな……

自由を愛するのはいいけど　責任とは向き合わなければ

松岡圭祐さんの　【アルセーヌ・ルパン対明智小五郎】

冗談ではない。そう単純に分析されてたまるか。アルセーヌ・ルパンは多面的で複雑な存在だ。あらゆる権威性や常識の破壊は、衝動ではなく使命だった。この年になっても使命感は一向にうすらがない。ことあるごとに前身の血が沸騰し叫びだす。人を法で支配せんとする、あるいは富裕をもって万能感に浸ろうとする、無知蒙昧な輩ども打ちのめせと。

おそらくこれが真相だろう。明智はそう思った。ルパンの説明は論理的だ。この男は常に人をだます。言葉巧みにまんまと口車に乗せる。だからこそ暴力を回避できる。残忍な手段を知恵で駆逐する。罪人でありながら、どこか憎めない理由がそこにある。そんなルパンに素顔がのぞいた気がする。

「明智、目を覚ませ。君には頭脳も行動力もある。なのに国家の行く末から目を背け、さして知性のない庶民のもとに出かけては、衒学で得意がるだけか？」

「僕の仕事は広く大衆のためにある」

「ごまかしだ。君はイギリスに数多いるホームズの追随者と同じだ。取るに足らないちっぽけな事件を解決しては、自尊心を満足させている。自分より強いものに挑もうとする冒険心が無い」

変装は容姿ではない。ルパンはそう言った。対象を理解し、人格を吸収し、思考と感情を可能な限り模倣する。心から成り代わってこそ、目つきや表情、声色も当人に似せられる。

演技は技術を要する。だがいくつかの必要な点を踏まえれば、外見上の特徴に違和感は生じない。人口の偽皮膚を顔に張り付けたり、整形したりする必要はない。発覚しそうな変装であれば、じっくり見られることのない環境を選べばいい。人をだますことに目的がある。うり二つに変身するのを競う芸ではない。

明智は顔を上げ、ルパンを一瞥した。父親ぐらいの年齢の男が、どこか悲哀を漂わせ、物思いにふけっている。恋多き男だが、付きあう相手には常に一途。伝記本の印象ではそうなる。五十半ばにして、まだ若い日々の感覚を引きずっているようだ。

とんだロマンチストだ。ただし悪いことには思えない。心は青年のまま年を重ねる。ある意味、幸せな人生かもしれない。

「あれを見ろ！」ルパンは声を張った。「あの空ははるか遠く、フランスまでつながっている。俺たちは大空を駆け巡ったんだぞ。悩むことがあったら空に聞け。俺も世界のどこかで空を仰いでいる」

平吉はぼろぼろと涙をこぼしていた。あまりに素直なその表情に、ほのかなぬくもりが胸の内に生じてくる。

――ー

「アルセーヌさん！」平吉がなおも悲痛な声で呼びかけた。「あなたは父親のような、いえ、それ以上の人でした！」

「女は星の数ほどいる」ルパンは伏し目がちにつぶやいた。「だがこの年になって、ようやく悟った。手を伸ばしても星には届かない」

「初老にして独身の嘆きか？」

「いや、真理だ」

盗賊は永遠に盗賊だ。誰にも理解されなくていい。自分なりの生き方がある。黄泉の国から再び歩き出す。本当の人生は今始まる気がする。

ルパンは不二子を見つめた。「あなたの幸せを願うがゆえに」

不二子の瞳は絶えず涙を滴下させていた。その顔に近づいてくる。二つの唇はそっと重なり合った。

今こそ理解できる。冒険は必ずしも夢をかなえない。夢は思いがけずかなえられるものだ。

シャーロックホームズではあまり気にならなかったけど

読み物として「ルパン」て名前があるのには　どういうわけか違和感をぬぐえなかった

名前の響きがキャラクタと齟齬を生じさせていたのか　それともかの「三世」をイメージしてしまうからか……

ヒロインに「不二子」が出てきたことからも　やはり「三世」由来の違和感だったのかもしれない

変装や詐術やら警察相手との大立ち回りをするのがルパンらしいのだとしたら　小説よりも映像こそ表現するのにふさわしいのかもしれない

というわけで実写映画化か「三世」のアニメ化であっても　やってくれたらぜひとも視聴してみたい作品

＿

フランスよ ルパンの魂を忘れたのか？

フランスよ　ルパンの魂を忘れたのか？