映画の戦争利用　思想統制・国威高揚――ー

教わる方はもちろん教師の側でさえ　わけもわからず叩き込まれてきたこの言葉の意味・細部

ここまで物語として描き出してくれるとは……

松岡圭祐さんの　【ヒトラーの試写室】

「奇術の興行に代わる見世物、ソレが発明直後の映画だった。すなわち大衆は、映画とはインチキだと思っていた。ジョルジュ・メリエスの短編から三十年余りが過ぎた今。世間はニュース映画を通じて国際社会を知る。そこに嘘があれば非難の対象となる。たった三十余年で変わったものだ。映画はインチキではなく、真実ととらえられている」

「映画による大衆心理の誘導は科学です。暗闇でスクリーンを眺めるのは受動的な姿勢そのものです。視覚と聴覚を通じ、上映開始直後は理性に訴える写実的なイメージを送り込み、映画が進むにつれ本能的欲求に働きかける空想的イメージを強めていきます。終盤で観客が泣き出すのは、それだけ理性が機能を失い、本能的になっている証です。見開きする情報に対し、理性的に検閲できず、子供のごとく示唆を受容しやすい心理状態に陥ります」

「とても不可能です」

「不可能を可能にするのが特殊技術じゃないか」円谷が声を弾ませていった。「いいか、できるかできないかを問われたら、とりあえずできると答える。それから胃が痛くなるぐらいまで考えれば、きっと解決策が見つかる」

どれだけ戦争機を量産しようと、全地球は爆撃できない。だが映画は世界の隅々にまで浸透し、人の心を操作できる。近代文明においては、宣伝相こそ軍隊をも上回る力を発揮する。その事実を証明する好機、歴史の転換点となりうる。

無力衝突では大勢が死ぬ。一方、映画で戦争に決着が付けられるなら、人命は奪われない。いかに文明的な進歩であるか考えるまでもない。

「もう時代が違うよ。いいかね。私にとって映画のスクリーンは、動く絵のキャンパスなんだ。そこにどれだけ写実的に絵を描くかが、私たちの仕事なんだよ」

「動く絵のキャンパスですか？」

「そう。フェルメールの絵画にリンゴが描かれていても、本物のリンゴの皮を張り付けてあるわけではない。あらゆる材質を絵の具で表現する。光が当たっていなくても明暗を感じさせる。映画も同じだ。特定の情景をスクリーンというキャンパスに模写するため、多様な材料を用いて工夫を凝らす。動く絵だけに、材料の特質や物理法則も再現性に役立てる。その昔、が在野がなかったころ、画家は筆も絵具も自分で作った。絵を描くことはそこから始まっていた」

――ー「本物の情景をスクリーンに模写する。すべてはそのための作業てことですね」

「そうとも。私たちはキャメラの前に脱脂綿を張ったガラスを置き、その向こうに真珠湾の縮尺模型をとらえることで、雲間から覗く地上を再現する。それをインチキ呼ばわりするのは、フェルメールを鑑賞したうえで、絵の具を塗っただけの偽写真と批判するようなものだ」

――ー「動く絵をキャンパスに描く才能が、僕にはあるでしょうか？」

「あるとも。だが辛い仕事だ。こんな時世に継いでほしくなかった」

意味がよくわからない。彰は円谷に聞いた。「辛い仕事、ですか？」

「一つ忘れないでくれ」円谷は憐憫の情を漂わせながら言った。「君が描くのは戦争の絵だ。戦艦が沈没するカットを作るとき、君は乗組員らの死を描いているんだよ」

すべてが映画の中のワンシーン　戦争も悲惨なこともスクリーンの先にある他人事

誰もが戦争を・殺し合いなどしたくない　日々平穏でちょっぴり刺激があればよいだけ

覗き見するだけで十二分　助けが欲しく・余っていたなら分け与えるのに障りなどない

本物の武力・爆弾など不必要　そんなことより今日食う米が欲しい

戦争など起こりようが無いのに……それでも勃発してしまった

物語の主人公やかのゲッペルスでさえ　映画があれば本当の武力など不要と言い切った

殴りあって撃ち合って殺しあって決着をつけるより　幾分以上にも文明的な解決方法だとも

確かにその通り　そうならないのは野蛮以下とも言われてしまう

ただもし映画だけで解決できるのなら　それ以前にあったはずのチェスや将棋・囲碁などのボードゲームでも決着はつけられたはず

大衆は納得せずとも戦争従事者たちなら納得させられる　大衆は戦争など無いのならそれで万々歳

ボードゲームだけで解決できたのなら　誰も死なず映画よりもローコストになる　おそらく映画以上に文明的ともいえたはず

でも……そうはならなかった

誰かの血と死を見ずには終われない　供物を捧げなければ止まれない使命感でもあるかのように

偽物を・人を模した加工品では代わりにならなかった　誰もが望む嘘なのに「本物」をと暴き出してくる

ナイフや銃や爆弾はどうしたって手放せない　弱肉強食こそ不変の理……

そう諦めたくなるけど　やっぱり言い切りたくもない

ソレが嫌だと思う感情は　弱肉強食と同じぐらい誰の中からも湧き出してくる想い

相手が世界の理だろうと　誰も彼もが拒絶するのならただの言葉

嘘や代用品で済ませてしまえる　絶対だと押し付けられても虚仮にできる

そんなものが大宇宙の・絶対の理であるはずが無い

それでも確かに弱肉強食はゆるぎない　虚仮にはできても永遠にはできない

二つは混ざり合うことなく対立しつづける　けど同じ軌道を描く円環にはなっていない

ぶつかり合うたびに広がっていく　かつての衝突や失敗の破片も今に残り続けてる

二つがグルグル巡り合いつづけるための軸は　折れずにずっと在り続けてる

その「第三要素」　まだ表現もできていないソレにこそ答えがあるような気がする

ソレをしっかりと現わせた時　弱肉強食にも悲しいだけでない意味が生まれる　そんな期待をさせてくれる

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奇術から夢の世界へ スクリーン越しの戦争

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