(何年ぶりの相手のいるお芝居は、たった数十秒の中、たった一言で全てを伝えるものだった…。)

課題が終わり、黒崎から次の課題が出されたため、キョーコを会場に置いてきて、奏江は控え室で1人でパイプ椅子に座っていた。

(はっきり言って、自信は殆ど無かったわ。本当なら激怒していいはずのB子に謝らせるなんて…あまつさえ、殴られれば反撃してくるのが当たり前。打ち合わせもしてない人間が予想どおりに的確に返してくれる確率なんて低かったのよ。ましてや、あの子は一般人であって演技についてはまったくの素人。だから低い確率はゼロだと言っても等しかったのに…どうしてかしら…私、あの子から私の演技に応えてくれるんじゃないかって確信に近いものを持っていた…。)

そこまで考えて、奏江は目を剥く。

(…もしかして、私…心の何処かであの子を信頼してる…?)

そんなまさかと奏江が思っているとこに、

「さっきはうまくやったわね。」

現れた絵梨花。その後ろには美しい執事が三人いる。

「でも、まぐれはそう何度も続かないわよ。」
「…まぐれ?」
「そうよ。まぐれじゃなきゃ、あんなの有り得ないもの!小学校三年以来、演技なんかしたこともない貴女が、演技で他人をリードして台詞を誘導するなんて実力あるわけないわ!!」

ふんっと鼻で笑う絵梨花だが、

(…本気で演技がやりたきゃ、世の中独学で勉強できるわよ!他人に注目されないとやる気が出ない貴女と一緒にしないでちょうだい!!)

どうやら、奏江が独学してきたと言う考えには至らないようだ。

「それになんたって、次の課題は“仲直り”きっかけはB子から出さなきゃいけない事になってるのよ。」

絵梨花に言われて、奏江はハッとする。

(そうだわ…始めはあの子が一体、何を仕掛けてくるのか考えてたのに…。)

気がつけば、考えが逸れていた。

「貴女の相棒のあの子、演技なんかしたことあるの?あっても、大したことないわよね~!!きっとビンボーだもの!!類は友を呼ぶって言うし!!私生活に貧しい人間は想像力も表現力も貧しいのよ~~!!」
「さすが絵梨花さま~!!」
「言うことに筋が通っていらっしゃる~!!」

あはははと高笑いする絵梨花を褒め称える執事たち。次の瞬間、パイプ椅子が執事の1人の頭に直撃する。

直撃した執事は気絶し、残りの執事と絵梨花はヒッと悲鳴を上げた。

「ビンボーは関係ないでしょう…!?」

そこにはパイプ椅子を今にも投げそうな勢いで身構えながら睨む奏江が…。

どうやら執事を気絶させた原因であるパイプ椅子は彼女が投げたらしい。

「お金があれば才能も豊かだって言いたいわけ!?ふざけないでよ!!言っとくけど、あの子はね!!私やあんたとは違うのよ!!はっきり言って第二課題であの子が何を仕掛けてくるか、私にはサッパリ予測がつかない!!私がアドリブであの子についていけるか不安なくらい、あの子は何処か可笑しくて変なのよ!!」

きっぱりと変だと言い放つ奏江に、

(そ…それは…褒めてるの…?貶してるの…?)

前半の部分は褒めてるように聞こえた絵梨花は唖然としたが、

「あ、貴女…自分の事は何を言われても、しれっとしてるくせに、どうしてあの子をコケにされるとムキになるのよっ。」

どんなに自分が嫌みを言っても相手にしなかったくせにと思いながら口にすれば、奏江はハッとして目を見開く。

絵梨花の言う通りだった。どうして自分はこんなに頭に来たのだろう。

その答えは…。