「えー、それでは皆様おまたせしました。」

受験者が全員移動し、並べられた椅子に座る。

しかし、監督が不手際でいないらしく、受験者たちは不安そうな表情を浮かべ、

「大丈夫なのかな…このオーディション…。」

キョーコも不安そうに隣に座っている奏江を見るが、

「いいえ…かえって好都合だわ。万が一のことがあったとしても、この一次審査は公平な審査が受けられるはず…。」

彼女はぎゅっと拳を作る。その仕草はまるでキョーコに言っているのではなく、自分に言い聞かせてるように思えた。

「…!?」

そう奏江が口にした途端、ガタンと椅子が倒れた音がしたと思えば、

「一番、高園寺絵梨花!!」

受験者たちの目の前で高らかにジャンプする絵梨花がおり、

「趣味、乗馬、海外旅行。」

その着地時点は奏江の前で、

「特技、ご覧の通り、プロなみのクラッシックバレエ!!」

華麗に身体を回転させる。

「高園寺…!?まさか、君は高園寺グループのお嬢さんですか!?」

高園寺の名前に食いつく、CMの商品である炭酸飲料“キュララ”の製造会社の重役2人。

それが狙いだったのか、絵梨花はニヤリと笑い、

「ちょっと、あんた!私の前に立つのやめてよ!!」

奏江の前に着地したのもワザとらしく、彼女が後ろで怒ると笑みを深めた。

「私は幼い頃から日本を代表するスターになるのが夢でした。なる自信もあります!私を起用していただけるなら、新発売の商品、高園寺グループの名にかけて必ず大ヒットしてみせますわ!!」

自信満々に絵梨花はそう発言する。

「でたわね、いつものが…っ。」

彼女の発言に奏江は歯ぎりをしたい気分だった。

キョーコも気づいたのだろう。

「モー子さん…もしかしてモー子さんが言ってた“人の見えない所で発揮する絶大な実力”ってこの事?」
「…そうよ。でも、ここはビジネス業界、プロの世界よ。欲しいものを道理をまげて手に入れられるような子供の頃とは違う。先方だって、ちゃんとその辺は弁えているはず…。」

そのはずだった。プロの世界なのだから…しかし。

「いや~、君なら話題性もあるし、期待できるな~。」

早速、話がまとまりかけているので、奏江もキョーコも驚愕していたら、

「ちょっと待ったー!!」

そこに受験者の一人が割り込んでアピールすると釣られるように他の受験者たちがアピールしだす。

はっきり言うと、そこはまるで修羅場。

「…私、頭ではラブミー部に入れられた理由わかってたつもりだったんだけど…わかってなかったみたいだわ…。」

唖然として呟く奏江に、キョーコは頬を引きつらせ、

「す、すごい…スターになりたい人って、皆あんな感じなの…?こ、怖い…。」

ぶるっと恐怖で身体を震わせる。

こうして、奏江とキョーコは何もしないまま一次審査は終わってしまったのだった…。