「マリア…!」
キョーコの腕の中でマリアを泣きじゃくっていると、聞き覚えのある声に振り向く。
「お、おじい様…。」
ローリィは孫娘に近づき、キョーコと目が合うと彼女は微笑む。
その微笑みにローリィは悟り、微笑み返した。
「マリア、帰ろう。」
「…うん。」
こくりとマリアは頷き、キョーコとありがとうと礼を言い、ローリィの元へと行き、彼と手を握る。
「君たちも事務所まで送ろう。ありがとう、助かった。」
彼はキョーコと奏江は言う。
「いいえ、それほどでも。」
にっこりと笑う奏江。そんな彼女にキョーコは、
「モー子さん、ゲーム以外なにもしてな…。」
「何か言った?」
ボソッと呟けば、ローリィに見えない角度で凄まれた。
「な、何でもない…。」
思わずキョーコは慌てて否定する。それほど奏江は怖い顔をしたらしい。
こうして二人はローリィに送っても貰うことになったのだが、
「…ねぇ、お姉様…。」
ちらっとマリアがキョーコを見て、そう呼ぶため、
(お、お姉様…!?)
キョーコはびっくりしてどぎまぎすると、
「ぱ…パパにどんなメールを送ればいいのか、分からなくて…。」
マリアはモジモジしながら頬を染める。
「うーん…何でもいいって思うけど…些細なことでもいいのよ?」
「さ、些細なこと?」
「そっちの天気はどうですか、とか。そこから話を膨らませればいいの。あ、いっそのこと電話にしちゃう?」
「ええ!?いきなり電話!?そんなのイヤ~!!相手が出るまえにきるわ!!」
「あはは、それじゃあ、ただのイタズラ電話じゃない!」
顔を真っ赤にするマリアと、爆笑するキョーコ。もうスッキリ仲良しに見えた。
「それじゃあ、お送りいただき、ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
事務所につき、キョーコたちはローリィに頭を下げる。
「…おじい様。」
彼女たちの背中を見つめながら、マリアがローリィを呼ぶ。
「どうした?」
「お姉様、私にこういったの。本当にパパに嫌われてるなら、無関心で通されるって…。」
確かにキョーコはそう言ったのだ。それはまるで…。
「お姉様は…ご両親のぬくもりすら、知らないのかもしれないわ…。」
「…!?」
マリアは自分の気のせいならいいと思った。だが、推測が正しいと言うのなら、
「それは凄く悲しいことだと思うの…。」
誰でもいい。誰か彼女を包み込んでくれる人間がいることを願う。
(…違うわ。私は一人だけお姉様を包み込んでくれそうな人を知ってる…それは…。)
マリアは目を閉じて、思い出す。自分が恋い慕う彼を。
彼は携帯画面を見つめている。こっそり覗き見れば、文章があり、どうやらメールのようだった。
送ってきた相手の名前は最上キョーコ。
彼はメールの内容をしばらく見つめていた後、返事を返す。
その彼の表情は正しく、恋する男の顔だった…。
(蓮様…蓮様はお姉様がお好きなのよね…?)
あんな表情はマリアは一度も見たことがない。
(ねぇ、お姉様…私はお姉様のためにできるかな…。)
キョーコに対する気持ちはすっかり変わった。感謝と尊敬。
彼女のために幼い自分は何ができるかと考え始めていた…。