東京に帰ってきてからと言うもの、キョーコはLMEのバイトを続いていた。
一番の理由は昼間のバイトの時給よりも良かったこと。
「あ~~!!もぉおおおおおおお!!鬱陶しい!!」
LME事務所の廊下。ドピンクのつなぎをきた黒髪の少女が髪をグチャグチャにしながら叫ぶ。
「ひどい、モー子さん~。私たち、親友でしょ?」
その原因は、同じくドピンクのつなぎをきたキョーコだ。
「誰が親友よ!!誰と誰が!!」
「私とモー子さんが。」
語尾にハートマークがつく言い方をしてキョーコは言うが、
「勝手に親友にするんじゃないわよ!!」
「仲良くしようよ、モー子さん~。」
「嫌よ!絶対!!」
モー子さんと呼ばれている少女は断言拒否した。本名は琴南奏江であり、モすら引っかからない名前だ。
「も~!素直じゃないんだから、モー子さんってば!」
それなのに、キャハと相手は照れたような反応をみせる。
「あ~~!!もぉおおおおおお!!」
そして、また髪をグチャグチャにする彼女…永遠のループ。
「やっぱり、養成所に入って一からやり直すわ!!さっさとこんなの脱いでやる!!」
養成所と言うのは、LMEの俳優養成所。そこから抜擢され、デビューする人間も多い。
こんな恥ずかしいものを着るくらいなら、遠回りのほうが良いと言う考えだろう。
「やぁ!君たち、元気にやってるかね!!」
そこに突如、現れたローリィ。
「「きゃぁああああ!!」」
巨大な蛇を首に巻いて…ちなみにこの蛇は毒がなく、人懐っこいようでナツコと言う名前だ。
ナツコはあまりにもキョーコたちが怯えたため、ローリィに仕えていた執事が連れて退場。
「しゃ、社長、それで私たちに何の用ですか…?」
心臓を落ち着かせながらキョーコが問うと、ローリィは真顔になり、
「実は君たちに頼みたいことがあってな…。」
懐からあるものを取り出した。それは写真であり写っていたのは…。
「こ、この子は…!」
「あ、あんたも知ってるの?」
「う、うん…。」
マリアだった。黒のセーラー服を着て笑顔で入学式の看板が立てられた校門の前に立っている。
「知り合いだったのか…。」
「あ、えっと…知り合いではあるんですけど…その…。」
キョーコは答えるのに困った。あれ以降、マリアと会う度に少女にシカトされ、蓮がいない場所だと睨まれると言う仲にあるからだ。
しかしローリィは何かを察したのか、自分のヒゲに触って、
(やっぱりか…。)
やれやれと、こっそりとため息をつく。彼にはわかっていた。マリアがキョーコを嫌う理由が…。
(蓮は最上くんが好きだからな…。)
マリアは嫉妬しているのだ。蓮の心を捕らえたキョーコに、その恋心ゆえに。
「最上くん、琴南くん。」
「は、はい…!」
「はい。」
「頼みごとはだな…この子を、うちの孫をなんとかしてほしい。」
キョーコたちは目を見開く。今、彼はなんと言ったか。この写真を孫と言った。
「う、うそでしょ!?」
声をあげたのは奏江だ。
(そういえば…モー子さん“あんたも”って言ってたけど、もしかして…。)
奏江もマリアと会ったことがあるのではないかとキョーコは思って、
「モー子さん、この子とあったことあるの?」
「っ…あ、あるけど…。」
聞いてみれば、何だか彼女は答えにくいようで黙り込むと、
「…頼みごとについては、社長室で話すとしようか。」
助け舟を出すようにローリィがそう言い、
「あ、はい。」
「は、はい。」
キョーコたちは頷いて、社長室で話を聞くことにしたのだった…。