(…確かに私はバイトを引き受けたわよ!?だからって…!!)
キョーコは震えていた、あまりの恥ずかしさに。その理由は己の格好。
(こんな格好をしなくちゃならないなんて…!!)
誰もが一目みれば、忘れられない見事なドピンクなつなぎ。左胸と背中には“オシャレ”な『love me』のプリントが…。
ちなみに“オシャレ”と口にしたのはタレント部主任、サワラで、彼がローリィから伝言でコレを着るようにと伝えたのだ。
あまりにもキテレツな、このつなぎは本来『love me』部と言う部門のモノで、何でも、才能はあるのに愛が欠けている者が入る部門と言うこと。
つまりはキョーコがこれを着る必要はないのだが、本来LMEはバイトを雇うと言うのは珍しいことらしく、ラブミー部に派遣と言う形をとったらしい。
(ぬ…脱ぎたい…っ。)
正直、今すぐ脱いでしまいたい。人にクスクス笑われているからだ。
「あーー!もーーーーーー!!!」
「…!?」
すると突然、近くから叫び声が聞こえ、キョーコはびっくりし、声がしたほうに近づくと、
「なんで私がこんなの着なきゃいけないわけ…!?ふざけんじゃないわよ!!」
そこは女子トイレであり、中をそっと覗けば、キョーコとそんなに歳の変わらない黒髪の少女が、何かを踏みつけていた。
(あ、あれって…。)
明らかに踏まれているソレはキョーコが着ているモノと一緒。
(じゃ、じゃあ、この人が…ラブミー部を作らせた原因…?)
確かサワラの話では、作って間もないらしく、部員も一人しかいないらしい。と言っても、その部員が嫌がって事務所にこないと聞いていたのだが…。
(それにしても、もー、もー言う人ね…。)
先ほどからずっと、頭をかきむしながら、もーと叫ぶので、キョーコはそう思っていると、
「あ!キョーコちゃん、こんな所にいた!」
「…!社さん。」
荒い息をした社がそこにいて、
「探したんだよ~。もうそろそろ時間なのに、事務所の前にいないから…。」
「す、すみません。」
「良いって、良いって。蓮が待ってるよ?」
「あ、はい。じゃあ行ってきますっ。」
ぺこりと頭を下げ、キョーコは荷物を持つ。中には一週間分の衣類などだ。
「じゃあね、キョーコちゃん!頑張ってね!」
「はい!」
笑顔で頷き、キョーコは急いで事務所から出る。
「敦賀さん!」
事務所の前にタクシーが止まっており、蓮がタクシーの前で待っていて、
「も、最上さん…?」
彼は彼女を見るなり、目を丸くする。
「あ…やっぱり、可笑しいですよね、これ。」
あははとキョーコはわざとらしく笑うと、
「い、いや、似合って…。」
「…そういう慰めはやめてください…。」
「ご、ごめん…。」
さすがの蓮もフォローをすることが出来ず、ずーんと彼女を落ち込ませてしまう。
「と、とりあえず行こうか?」
「は、はい…。」
思い空気のまま、二人はキョーコの荷物をトランクに入れてから、タクシーへと乗り込み、タクシーは駅へと向かったのだった…。