蓮が頭を抱えている頃。キョーコは夜のバイトである、だるまやのバイトが終わり、帰宅しようと思えば、店の前にリムジンが止まっており、

「な、なんでこんなのがウチに…!」

キョーコもだるまやの女将と大将も驚いていたら、

「迎えにあがりました、最上キョーコさま。」

リムジンの運転席から褐色の肌をもつ、執事の格好をした男性が出てきて、フルネームで呼ばれた。

「し、知り合いかい?」
「い、いえ!!」

女将の問いにキョーコは首を振る。

リムジンが買えるほどのお金持ちほどの知り合いなどいない。

「失礼しました。私は旦那さま…ローリィズ・マジスティック・エンターテイメント事務所社長、ローリィ宝田さまによって、遣わされた者でございます。」

ぺこりと頭を下げ、褐色の彼はそう名乗ったが、

「は、はぁ…。」

そう言われても、どう反応を返したらいいのか分からないキョーコは首を傾げそうになると、

「旦那さまがお待ちです。お乗りください。」

彼はリムジンのドアを開ける。

「あ、あの、でも…!」
「敦賀さまもお待ちです。」
「…!」

蓮の名前を出されて、渋っていたキョーコは目を見開き、

「…その社長さんは私の何の用なんですか?」
「いえ、私は遣わされただけですので、旦那さまのご意志は分かりません。」
「分かりました。行きます。」

行くことにしたらしく、車に乗り込もうとすると、

「キョーコちゃん、大丈夫なんかい!?信用して!!」

女将が彼女の腕をつかみ、心配そうな表情で言う。

「大丈夫です。お疲れ様でした。」

そんな女将にキョーコは、にこっと笑い、お辞儀する。

少なくとも誘拐ではないとキョーコは分かっていた。

自分なんか誘拐しても、何のとくもないと分かっているし、相手のことは信用しても良いも感じたからだ。

「それでは。」

リムジンにキョーコが乗り込みと、褐色の彼も女将たちにお辞儀をし、運転席に乗りこめば、リムジンは動き出す。

(それにしても…落ち着かない…!!)

リムジンの中は豪勢だった。シャンデリアまである。リムジンに乗ったのが初めてなのだから尚更だ。

ドギマギしているうちにリムジンは動きを止め、ドアが開けられる。

(…ここが敦賀さんの事務所…LME…そういえば、ショウちゃんが敦賀さんの悪口いうついでに事務所の悪口も言ってたような…。)

その悪口は思い出せないが、

「か…考えるのは止めようっ。考えちゃダメなの!」

つい尚のことを思い出して、まだ癒えてはいない傷がズキと痛んだキョーコは首を振って追い出す。

「…最上さま。」
「ふえ!?は、はい!」

側に褐色の男性がいたことを忘れていた彼女はつい驚いたが、

「こちらでございます。」

彼は気にすることなく、案内する。

通された場所は、最上階の社長室であり、

「旦那さま。最上さまをお連れしました。」
「はいれ。」
「失礼します。」

褐色の彼がドアを開ければ、

「最上さん!?」

そこには蓮がいて、彼女を見るなり驚いた表情をしたのだが、それよりもキョーコの視線はローリィに向いている。

(…う…嘘でしょ…?こ…この人が社長…?)

金ピカの貴族衣装。キョーコが思い描いていた社長とは全く違う。

しかし現実には酷にも、彼は社長しか座ることが出来ない椅子に座っている。

開いた口が塞がらないとはこの事である。

「君が最上くんか。蓮が世話になってるね。」

にこにことローリィは笑うが、驚きすぎて口を開けたまま固まっているキョーコの耳には届かず、

「最上さん。気持ちはわかるけど、口は閉じたほうがいいよ…?」

蓮に言われて、やっとハッと我に返ったキョーコは慌てて口を閉じ、

「も、最上キョーコといいます。」

ローリィにお辞儀をした。

「うんうん、報告どうり、礼儀正しい子だな。」
「…は?報告…?」
「あ、いや。こっちの話だから気にしないでくれ。それでだ、最上くん。」
「は、はい。」
「君に折り入ってお願いがあるんだ。」
「お、お願いですか…?」

こんな大きな事務所の社長が自分に何のようだとキョーコは思うと、

「社くんの変わりにマネージャーをやってくれないか?」

にこやかに笑ったローリィは彼女にそうお願いをしたのだった…。