『…パパとママは私を捨てたの。私のことなんて要らなかったの。ねぇ…お兄ちゃん…私、なんのために生まれたのかな?』
あの日…そう聞いてくる幼い少女の目は絶望の色だった。深い深い闇だった。誰もそこから救い出せないような深さだった…。
「美優ちゃん…。」
今、彼女は同じ目をしている。
「血の繋がった親すら、実の子を捨てるのに、里親なんて信じられない。」
だから最初から要らないと美優の目が語っている。それはとても悲しいことで…。
「お兄ちゃんが羨ましいな…きっと愛されて育ったんだね。だから…私の気持ちなんて分からないでしょ?」
「美…」
「ねぇ…本当の愛って何かな…?お兄ちゃんのこと好きだと思うけど…でも、これが愛か聞かれると分からないの。愛なんて知らないから…だから…信じられないの…お兄ちゃんのことも…自分も…。」
彼女の目に涙が浮かぶ。美優は分かった。何故、トワを信じていいのか迷っていたのか…それはまず自分の気持ちが分からないからだ。自分の気持ちが分からなければ、相手も気持ちも分からないから…。
「…美優ちゃん。」
トワに呼ばれて、美優は彼を見れば、抱き直されて、お互いの唇が重なる。
「お兄ちゃん…?」
「…好きだよ。それじゃ駄目?」
彼の表情が寂しげになり、
「愛なんて無理に分かろうなんてしなくていいんだ。ただ…その人が掛け替えのない大切な者だって分かってればいいんだと思う…美優ちゃんは俺のこと大切?居なくなった嫌だ?」
美優にそう聞けば、彼女は目を大きくして、
「い、嫌だよ!やっと会えたのに!ずっと一緒に…。」
居たいと答えようとしたが、また唇を塞がれて言葉にならなかった。
「それでいいんだよ。それが愛だと俺は思う。」
「そう…なの…?」
「うん。俺も君のことを放したくないし…。」
「ず、ずっと一緒に居てくれる?」
「いいよ。ずっと一緒だ。」
すると美優は、子供ように泣き出して、トワはあやすように彼女の背中を撫でる。
「…美優ちゃんって呼ぶのは、もう止めようか。いつまでも子供じゃないんだし…。」
「…?どういう意味…?」
「うん?まあ…美優が16になるまで待つよ。もしもの時に責任をとれないのは嫌だから。」
「???」
「さて、俺はご飯を食べるよ。もう腹ぺこで…。」
彼がそう言えば、トワのお腹が鳴って、美優は可笑しくなって笑う。
「胃袋だけはお父さんと全然似てないね?」
「…父さんの胃袋は過酷な食事生活の中で生み出されたものだからしょうがないね。」
「か、過酷…?」
「まあ、それについては追々…ね。あとで会わせるし…。」
「…え?」
「もうすぐ、妹の結婚式があるんだ。それで…。」
ごそっとトワは、ポケットから招待状を出し、
「君と一緒に生きたいんだ。母さんに君を紹介したいし…。」
照れくさそうに美優に差し出す。
「……………………………………ええ!?む、むむむ無理!!!そんな勇気ないもん!」
「大丈夫。絶対に母さんは君のことを気にいるから。」
「絶対なんて保証がどこに!?」
「大丈夫だって。それとも、俺のよこに立つは嫌?」
「そ…そうは言ってないけど!」
「なら決まり。ここに名前書いて。カレンが彼女がいるなら、招待したいって言ってくれたから。」
「か、彼女…。」
「あと、お兄ちゃんって言うのは、もう止めてくれないかな?君は妹じゃないし。」
「じゃ、じゃあ何て呼べばいいの?」
「トワ。呼び捨てで呼んで。」
「と…トワ?」
「そう。分かった?」
「う、うん。分かったよ、お兄…トワ。」
美優は言いかけたが言い直し、トワは満足そうに笑って、彼女をやっと放すと、
「じゃあ、先にリビングに戻ってて。俺、この作りかけを作りおわすから。」
「う、うん。待ってるね。」
キッチンから彼女は出て行き、美優を見送ったトワは、料理を再開したのだった…。