ギリギリとクオンは折れるかと思うくらいに掴んだ男の手首を握り潰す。
あまりの痛さに、キョーコの手を放し、クオンに抵抗しようとするが、痛さでそれも叶わない。
ようやく手を放された男は涙目で、
『覚えてろよ!』
どこぞの雑魚キャラのように逃げていく。
「…あはは!」
「…!?」
するとだ。クオンが笑い出したので、キョーコはびっくりした。
「あ~スッキリした!!」
何だか、晴れ晴れしい顔にクオンは勝手になっている。
「あの…クオン?」
「ありがとう。」
「え?」
「俺のために怒ってくれて。」
「う、ううん…頭にきただけだから…。」
ポリポリとキョーコは人差し指で頬をかく。何だか照れくさい気がした。
「私こそ、ありがとう。助けてくれて。」
キョーコは微笑む。その微笑みを見て、クオンも微笑む。
さっきまでの二人の空気が嘘のようで、
その後、二人は仲良く夕食を食べて、1日の終わりを迎えたのだった…。
キョーコとクオンは、その夜に不思議な夢をみた。
あの森に幼い子供が、小川に足を入れていた。
『ごめんなさい。僕のワガママで…。』
癖のある青紫のショートへアーと瞳。
格好は男の子ぽいが、顔は女の子で、ハッキリとは性別がわからない。
『僕はただ…二人に傷つかないで欲しかったんだ…でも逆に傷つけちゃった…ごめんなさい。』
その後は謝る。
『変わりに…貴方たちに奇跡を上げる。どうか、幸せに…。』
子供は笑う。そこで、キョーコとクオンの夢は途切れた…。
「…変な夢…。」
起きたクオンは呟いて、リビングに出たのだが、
「…あれ?」
キョーコの姿が見当たらない。いつもなら起きている時間だった。
「…キョーコちゃん…?」
寝ていると思って、彼女が使っているゲストルームをノックするが、返事がない。
「入るよ…?」
ドアノブは簡単にまわり、ドアが開く。
「…!!」
ベッドにキョーコはいなかった。部屋のどこにも。
クオンはその場に崩れ落ちる。
「うそ…うそだろ…?こんな急に…。」
彼の目から涙が流れ始め、
『ただいま~。』
「…!?」
父の声がして、慌てて涙を拭き、玄関に向かうとやっぱりクーがいた。
『ただいま、クオン。』
『おかえり…じゃなくて!帰ってくるの明後日じゃなかった?』
『それがな?早く終わったんだよ。いや、驚いた。』
『そう…でさ!聞いて!キョーコちゃんが…!!』
『…?誰だ?その子は。さてはガールフレンドか?』
『…え?何いってるの、父さん。キョーコちゃんだよ?肉じゃが食べたじゃないか!他にだって…!』
『お前こそ、何言ってるんだ?肉じゃがなんて、ここ数年食べた覚えがないぞ?』
『そ…そんな!!』
クオンはショックを受けた。この様子では本当にクーは覚えていないだ。
「そ…そうだ…母さん!」
『お、おい!クオン!?』
急いで電話があるリビングに向かい、母にかけ、キョーコのことを聞いたが、母も覚えていなかった。試しにリックも確認したが、同じだった為、クオンは絶望する。
「なんで…なんでキョーコちゃんがいなかったことになってるんだ!!」
覚えているのは自分だけ。
「なんで…どうして…。」
クオンは泣き崩れる。クーが心配そうにワケを聞いてくるが、無視する。
彼女を覚えていないのだから、何をいってもわかって貰えないのだから…。
「キョーコちゃん…。」
ゆったりと目を閉じて、少年は彼女を思い浮かべたのだった…。