ファースト・ラブ

ー無償に与えられる愛を君へ・・・ー



(ん・・・?)

それにいち早く気付いたのはローリィで、

(もしかして、今・・・最上君の雰囲気が変わったか・・・?実力のある役者は役に入り込んだ時、まるで別人だとしか思えない空気が作り出すが、それか・・・!?おお・・・!!なんということだ・・・!!彼女はそんなことまでできるのか!!)

「おじい様・・・。」

ローリィの異変にマリアは気付いて、

「どうして、そんなに楽しそうなの!?さっきからーー!!ひどーい!もっとしまりのある顔してよーー!!」

にこにこしてる叔父に怒る。

「だから・・・言っただろう?さっきも『楽しみ』だって・・・見てたらわかるよ・・・」

(彼女には、驚かされる・・・あの子は、一体なにをやらかすのか、分からないんだ。)

ローリィはにこやかに笑っていうが、マリアは自分の叔父がどうしてにこにこしているかの理由も分からず、

「でも・・・。」

キョーコが心配なので、落ち着いてはいられなかったが、

「エンジェル・・・。」

実技テストが始まったので、バッとマリアは自分と同じくらいのエンジェル役の子の背中をみた。

「ああ・・・可哀想に・・・あなた、そうやってずっと自分を責めてきたのね・・・でも違うのよ。あなたの憎んでる人なんてこの世に一人も居やしないわ。」

さっき嫌味をいった一人の生徒のほうが膝を床につけ、ソファーに座っているエンジェル役の子の手を握りながら台詞を言い、

「ええ!そう、そうね。みんな私の前ではそう言うわ!でも、影では私がお母様を殺したと言ってるくせに・・・!!」

エンジェル役の子も台詞を言い返す。

『だから仕事の邪魔になる子供なんか作ってほしくなかったんだ!!リーナはこれからだったのに!12月24日!?子供が誕生日を祝ってほしかっただと!?なんでそんなもの、我慢させなかった!!』

その台詞に再び、マリアは母の葬式の時を思い出し、

(ママの仕事の関係者と何処からか事情を知ったママの熱狂的ファンが口を揃えてそう言うのを聞いたわ。なのに・・・おじい様の孫である私の前では、みんな本音を隠すのよ!!)

『気にしなくていいんだよ・・・リーナが死んだのはマリアちゃんのせいじゃないんだ・・・。』

あんなにもマリアを否定するような言葉を吐いていていた男性がローリィに抱っこされるマリアに言うので、

(だから、大人なんて信用できないのーー!!)

絶対に信用なんてできないとマリアは本気でそう思った。

「私のせいでお母様が亡くなった事には変わりないでしょう・・・!?その証拠にお父様は今でも私を憎んでる・・・!!」

「まぁ・・・!!なんてことをいうのエンジェル!!」

マリアが過去を思い出しながらも、ちゃんと芝居は見ており、奏江も腕を組んで

(もうすぐ、あの子の台詞が入るシーン・・・)

「そうよ、そんなことあるわけないわ。」

(脚本では『思わず小さくすすり泣く』アクションで入っていくとこだけど・・・)

「親が本気で実の子を憎むなんて・・・そんな事」

(さぁ、あんた・・・どう切り込むつもり・・・?)

「実際、あるわけがないでしょう?」

キョーコがどう切り込むのかと考えた瞬間、ぷぅっ・・・!と誰かが噴出した。

だから、皆はただ瞬きを何回かしたが、ローリィは関心そうに、ほぉ・・・?と言って、

その彼の視線の先には、腹と口を押さえて笑いを堪えるキョーコ。どうやら噴出したのは彼女のようだ。

「ねぇ・・・あの子、本気で笑ってない・・・?」

「ま・・・まさか・・・。」

本当にキョーコが笑っているように見えるのでフローラ役の生徒とその他の生徒は混乱し、

「どうして笑ってるの・・・フローラ・・・。」

芝居に参加してる生徒がキョーコに聞くと

「あ・・・いえ、もう・・・何度いろんな人に同じ言葉を聞いたかと思うと・・・。」

(・・・!!脚本通りの台詞・・・!!)

キョーコの予想外の台詞にフローラ役の生徒は驚き、奏江も、

(まさか・・・!!脚本通りに演るつもりなの・・・!?あの子・・・!!)

彼女が脚本通りにやるのではないかと考えたが、

「つい・・・」

キョーコは腹と口を押さえるのをやめると

ごめんなさい・・・?

くす・・・と奇妙な笑いを浮かべ、目を光らせながら、エンジェル役の生徒たちを見た。

それをみた生徒たちは顔を青くして、ガタンっ!と思わず、音をたてて後ろに下がる。

「すごいわ・・・。」

同じく、それをみたマリアは感想を述べ、

((殺気・・・。))

ローリィと奏江はキョーコの演技に殺気を覚え、生徒達と同様に顔を青くしたが、

「台詞は同じなのに、『感情』を変えただけでこんなに変わるなんて!!なんて感じのいい『姉』かしら!!こ!私はこれを求めていたの・・・!!ああ、お姉様と呼ばせて・・・・!!」

手を組み合わせて、目をキラキラと輝かせるマリアに奏江は唖然とし、

「いや・・・そう思っているのは確実にお前だけだぞ、マリア・・・。」

ローリィはそんな孫にもっと顔を青くしたが、キョーコの芝居は続いている。