ファースト・ラブ
ー無償に与えられる愛を君へ・・・ー
新開とキョーコが話してる頃、
「あれ・・・?蓮、どうしたんだ?来ないはずじゃあ・・・?」
行かないといった蓮がこの場に来たために社は聞くと
「いえ・・・ちょっと・・・。」
蓮は笑いながら、曖昧に答える。
すると新開が蓮が来た事に気付き、彼をこっちへと呼び寄せ、
呼ばれた蓮はそっちへといくとキョーコと目が合うが、彼女が自分を軽く睨んだ。
そのためか、二人の会話なしで、ピリピリとキョーコの視線が来るだけ。
「蓮、ちょっと頼まれてくれないか・・・?」
そこに新開がそう言いだし、
「なにをです・・・?」
蓮は頼まれごとの内容を聞いた。
「すいません・・・。」
ホテルの内を松葉杖を使いながらキョーコは歩き、
「わざわざ、お部屋まで送ってくださるなんて、本当に社さんって優しいですね!!」
「え・・・いや・・・俺は蓮に付き合ってるだけで・・・。」
社に礼をいうが、社は何故自分が礼を言われなければならないのか分からない。
本来なら、新開にキョーコを部屋に連れて行くように頼まれた蓮に礼をいうのが当たり前なのだが、
その本人が彼女の真横にいながらも、会話に加わろうともしなく、キョーコはキョーコで明らかに彼をシカトこいているため、
(なんだ、なんだ。この二人は・・・)
『だって・・・あの人が、私にはすごく意地悪なんです・・・!』
(まさか・・・本当に仲が悪いのか・・・?いや・・・でも、蓮は気に入ったと言っていた。根性だけだけど。)
キョーコの言葉を思い出しながらも、
(と・・・とにかく、この場を繋がなければ・・・!)
「あ・・・あの、そういえばさ、キョーコちゃんっていつから茶道やってるの?」
結構無理に笑って話を繋げようとしたが、聞いた途端にキョーコの表情がずーん・・・と暗くなって
(うあ!?空気が益々重く!!何故・・・!?)
社は何故こんなことになったのか理由がわからない。
(茶道・・・)
一方、聞かれたキョーコは暗い過去?へと迷い込んでいた。
(茶道といえば・・・ショータローの旅館にはお茶室があって、私はショータローのお母さんについて、よく小さい頃からお茶室に出入りしてた・・・)
『キョーコちゃん、お茶、本格的に習ってみいひん?』
(そういわれて、女将さんに誘われるまま、習い始めたのが、12の頃・・・今、思えば・・・)
『今から習とけば、将来、絶対に役に立つさかい。な?』
(『将来』・・・?『絶対』・・・?あれって、女将さんに『女将修業』させられてたんじゃ・・・!?だって!!あの旅館でお客にお茶をたてて出せるのは、女将だけなんだもの・・・!!それは即ち、ショータローの花嫁修業を・・・!!)
今となって分かった真実にキョーコは手と膝を床につけたので、社は驚いて、蓮も軽く驚き、
(知らぬとはいえ・・・私・・・!!あの頃にはもう、久遠に惹かれ始めてたのに、あいつの花嫁修業だなんて・・・!!って事は、
私・・・今回の演技テスト・・・久遠に惨敗しただけじゃなくて、唯一なによりも自信があったお茶をたてる演技も、ショータローのために身につけたものになってる・・・!あ・・・違う・・・)
あることに気づいて、血の気が引くキョーコ。そこに蓮がしゃがんで、
「大丈夫か・・・?」
彼女の様子を伺うように聞いてくる。
(それはもっと・・・もっと、ずっと昔から続いてた・・・桂剥きも、ショータローの両親に嫌われたくないから身に着けたことで、仲居立ちも、ショータローの両親が喜んでくれるから身に着けた・・・お茶もそうだ。全部・・・ショータローのために身に着けたものになってる・・・私・・・『空っぽ』の人間になってるわ・・・何にもない・・・お芝居以外、なんにもない・・・!自分のためになにかを身に着けたことなんて何一つ・・・!!)
まるで人形のような自分にキョーコは絶望を感じ、蓮がある人物に気付く。
「すみません、月刊『BOOST』の者ですが・・・ちょっと彼女の話を・・・」
その人物はあの記者で、キョーコの話を聞こうとしていたみたいだが、
「今、取り込み中だ。」
睨みと一緒のその一言で退散していき、
(わぁ~~あ・・・一声だぁ~~今の上から見下ろされつつ、言われたら、もっとビビるんだろうな・・・。こりゃあ監督も頼むわけだ・・・。)
新開が何故、蓮に頼んだのか社は納得した。
「足・・・痛むのか・・・?」
(お・・・?)
今まで会話に加わろうとしたかった蓮がそういうので社は関心すると
「立てるか・・・?」
蓮に聞かれたキョーコはただ頷き、彼の手を借りながら、立ち上がって
(だけど・・・今日、思ったことがある)
ちら・・・と蓮を見ると
(うまくなりたい・・・もっと・・・。久遠と対等に演り合える演技力を私・・・身に着けたい・・・!!)
「なに・・・?」
「いえ・・・なんでも・・・。」
急にキョーコが彼を見たため、蓮は彼女に聞くとその本人は借りていた手を離す。
(なんだ・・・なかなかいい感じじゃないか・・・やっぱり、俺の思い過ごしかな、仲が悪いなんて・・・。)
そんな二人をただ見守る形でみてる社は、思い過ごしだと考えを改める。
(だから・・・いつかまた久遠と向かい合った時、私の演技が私の力で出せるようにしよう・・・。そうすれば、いつかは『私』が本当の私になるから・・・。)
部屋にへと再び歩き出し、キョーコは決意を新たにする。決して彼女は人形なんかではないのだから。