ファースト・ラブ
ー無償に与えられる愛を君へ・・・ー
(なに・・・!?これ・・・!!いつもと雰囲気が全然違う・・・!!なんなのよ、この威圧感・・・!!もしや喧嘩売られてる・・・!?ま・・・負けるもんか!!)
蓮の本気の演技にキョーコは飲み込まれそうになっていたが、顔を上げて彼を睨む。
それに蓮は気付き、新開はそんなキョーコになお、関心しながら
(お、おお!持ち直したぞ。あの子、蓮に歯向かう気だ!なんて負けず嫌いな!!本格的な芝居経験もなく、まして蓮と一対一で向き合って演技するなんて初めての子が・・・これはますます面白い・・・!!)
に・・・と笑って、もっと興味を示したが、
(だが・・・このシーン・・・)
「あ・・・あの岬へは、近づくなと、幼少の頃から・・・。」
陶器を受け取り、キョーコは台詞を言い、
(君がどんなに頑張っても、蓮は、君を捕まえるーー!!)
「ああ・・・。」
蓮が突然、視線を横に移し、耳を澄ましたので
(え・・・?なに・・・?)
キョーコはまた不思議に思うと
「鈴の音・・・。」
(え・・・!?どこ・・・?)
蓮の言葉のまま、耳を澄ましたが、
「に、誘われる、とか・・・?」
次の彼の言葉にキョーコは驚いて手の元から陶器を落とし、畳みに器が転がった。
(だ・・・騙されたーー!!ただの台詞だ!!分かってたはずなのに・・・!!どうして騙されるのよ、私ーー!!)
そして驚いた表情のまま、ショックを受ける。
「よし・・・いい表情だ・・・。」
キョーコの驚いた表情に新開はにっ、と笑い、
「!!」
それに瑠璃子はすぐに食いついて
「あ、あのくらいなら私にだってできます!!」
そう言ったが、新開は瑠璃子に視線を移し、
「それはどうかな・・・今のあの子の演技は蓮が引き出した。あの子に対して蓮が本気で向き合ってるから、出てきた表情なんだよ。だから、君があの子と同等の演技をするには、まず、君が蓮を本気にさせないとできないな。」
真顔で彼を本気にさせないと同じはできないと言い返し、そんな言葉に瑠璃子は
「どうすれば・・・敦賀さんは本気で向き合ってくれるんですか・・・?」
新開に聞いてみると彼は
「君は・・・もし、今のあの子の立場が、自分だとしたらどうする?」
「え・・・?」
「あの子と同じように足の怪我を押しても、このシーンを正座でやりとおすか?」
聞き返してきたので瑠璃子は自分の立場に置き換えてみる。
(私、なら・・・。)
《私は怪我してるのよ!?正座なんかできないわ!!公平じゃないわよ!!監督!正座しなくてもいいように、このシーン作り変えてよ!!》
《う~~む・・・。》
考えてみるとなんとも我が侭ぷりな自分のせいで新開が困った顔をするのを想像した。意外にも瑠璃子は己をわかっている。
そこに新開が口をあけた。
「・・・蓮を本気にさせたのは、あの子の自分の辛さを他に見せないプロ根性だ。『それ』には自分の仕事への誇りさえ感じる・・・。」
あけると彼はそう言い、瑠璃子はその言葉に衝撃を受けた。
その頃・・・キョーコは必死に足の痛みと戦っていた。
『頑張るやで、キョーコちゃん。』
ここにいないはずの女将さんの声だって聞こえる。
『お客様がお席を立つまでの辛抱や。』
(もう少し・・・!もう少し・・・!!)
合わせてる下の手をぎゅっ・・・と強く握る。
「今のあなたの様子では、何か、あなたもご存知のようですね・・・あの岬にまつわる因縁を・・・。」
キョーコに背を向け、芝居を続けていた蓮だが、ゆっくりとキョーコを見て、彼女の異変に人目で気付いた。
それは新開も同じだったようで、
「・・・!こりゃいかん、ストーップ!そこまで!!」
演技テストをとめて、すぐさまに彼女に寄った。
「キョーコちゃん!そこまででいいから!!」
瑠璃子もキョーコを見て驚いた表情をする。
「もう、やめなさい!!」
新開は早くやめさせたかった。何故なら、以上にキョーコの顔が青く、目が虚ろで汗がたくさん出ていたから。
そんな彼女をみてスタッフたちもざわざわし出す。
「キョーコちゃん、もう終わってもいいだよ!聞こえるかい!?」
必死に新開はキョーコに言葉を投げかけるが、
「いいえ・・・まだ・・・終われません・・・。」
彼女は酷い状態なのにやめようとはしなく、瑠璃子は瑠璃子で決してやめないキョーコを見て、売れなかった頃を思い出し始めていた。
『だって!まだ、違うんです!!こんなの、私が求めてる理想の出来じゃないの!!』
記憶の中のレコーディング中の自分は必死にそう音楽プロデューサーに訴えている。
「気持ちは分かるが、どう見ても、今の君は普通の状態じゃない。」
『熱が高いのよ、瑠璃!!これ以上はやめた方がいいわ!!』
新開の言葉が当時のマネージャーの言葉と被る。
「いいえ・・・私は・・・最後まで・・・ここを離れません・・・。」
キョーコのその言葉に蓮と新開は驚いた表情をし、固まる。
『納得できないんです!だから、もう少しやらせてください!!お願いします!!』
プロデューサーに頭を下げる、記憶の中の自分の姿。
(あれは・・・デビューしてても、まだ全然売れてなかった時期・・・)
『私、「歌」が好きなのよ・・・。こういう時こそ、その気持ち、歌に込めたいの・・・。みんなに聞いてもらいたいのよ・・・私の歌・・・!!』
マネージャーに冷えピタをはってもらいながら、笑顔でそう語る、自分は
(私・・・いつの間にか・・・あの頃の気持ち・・・忘れてた・・・。)